八戸市の小さな一軒家に住まう中村タケさん。彼女こそ、90歳を超える日本最後にして最高齢のイタコだ。その姿は、どこにでもいる“田舎の可愛いお婆ちゃん”。

 彼女が行う儀式はいったいどのような内容なのか。ここでは、「道民の人」が執筆した『日本遠国紀行』(笠間書院)の一部を抜粋。現地を訪れ、自分が生まれる前に亡くなった祖父の口寄せを依頼した際の一連を紹介する。死者の魂を呼ぶ儀式の実情とは――。

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口寄せと涙

 中村タケさんは、短い白髪頭の小さなお婆さんだった。廊下の壁に手をつくようにして玄関に向かってくる姿は、顔も体も小さく、それでいて声に低い張りと芯があった。左目は一文字に閉じたまま、右目も半分開かれたままの瞼の下にあるのは義眼でまったく別の方を向いたまま動かない。

 目が不自由なのはすぐわかった。しかし、立ち姿も声もしっかりしており、身にまとった黒い洋服には汚れやほつれなどはまったくない。「矍鑠(かくしゃく)としている」という表現がぴったりだと思った。

 でも、それ以上にタケさんは「かわいい」方だった。東北地方の田舎町で、道端で猫車を押しながらひょこひょこ歩いていく農家のお婆ちゃん、朝から庭先で洗濯物を一生懸命干しているお婆ちゃんのような、どこにでもいる「田舎の小さなお婆ちゃん」という雰囲気の強い方だった。

 しかし、そんなどこにでもいるような彼女が盲目で、そして現在90歳を越える日本最高齢にして最後のイタコであるという事実に、私は玄関でただただ震えるだけであった。

「いらっしゃい。今日はほんどに遠いどっがら(所から)……まンず上がってちょうだい」

 優しげな笑みを浮かべたタケさんは、南部訛りの東北弁で私を迎えてくれた。

ごくふつうの「田舎の祖父母の家」といった雰囲気

 上がってすぐ左手に廊下があり、その突き当たりが口寄せを行う部屋だそうで、江刺家さん(編集部注:八戸郷土史家で伝統的なイタコの姿と歴史、業を守り、伝える活動を行う人物)に伴われて廊下を歩く。イタコの家といっても、イメージの中にあるような妖しいオカルトグッズやお札の類はなく、口寄せを行う部屋に大きな祭壇のような神棚があるのみだ。ごくふつうの、「田舎の祖父母の家」といった雰囲気で、掃除もよくなされていて整然としている。

現在、日本最後の一人の「伝統的イタコ」となった中村タケさんは、東北によく居られる、かわいらしいお婆さんだった。ここ最近、耳がだいぶ遠くなってしまったが、90歳を越えてもなおイタコ業を続けられている

 祭壇のある部屋は8畳ほどの広さで、絨毯が敷かれており、南側に大きな鈴と幣、天照大神などを描いた掛け軸、注連縄の張られた祭壇があった。

 その前に座布団が敷かれており、ここにタケさんは座って死者の魂を降ろすのである。

「とりあえずそこに座っててください」と江刺家さんが促し、タケさんに今日私がここに来た理由と経緯、写真や動画の撮影を行うことなどを教えていた。