死者の魂を自らの体に降ろし、その言葉を語る青森の民間霊媒師「イタコ」。かつては県内に多数存在したが、医療の発達や後継者不在により、厳しい修行を経た本来の“盲目のイタコ”は今や絶滅寸前となっている。
ここでは「日本最後」とも言われる93歳のイタコ・中村タケさんに、生まれる前に亡くなった祖父の口寄せを依頼した体験を記した『日本遠国紀行』(笠間書院/著:道民の人)の一部を抜粋。儀式の一連を紹介する。
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日本最後のイタコが始めた「死者を呼ぶ祈り」
「一心、おぼし願い奉る……お力をください。おぼし願い奉る……、極楽の、役人に導きの力を……お頼み申す……」
「一心、願い奉る……北海道(住所)の(名前)、(忌日)に別れた、お爺さんを……娑婆のたよりの……降りてきてください、一心、お頼み申す……」
「ありがたい釈迦如来、阿弥陀如来、高野の弘法大師様。恐山の慈覚大師様、閻魔大王様……、三途の川の……十三仏、道しるべの役人どもに……願い頼み奉る。一心……南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」などと、一定のリズムと調子で、まずは神様や仏様に力を貸してもらいながら、浄土にいる霊を呼ぶのである。もちろんこのお経は、神社やお寺で唱えられているような標準語の語調ではなく南部訛りで、ところどころ聞き取れない内容もある。何度も何度も繰り返される神仏の名は青森県内のものだけでなく、釈迦如来や阿弥陀如来、普賢菩薩など多岐にわたっており、「あらゆる神仏よ、力をお貸しください。浄土にいる○○さんという霊よ、どうか迷わずこの世へ降りてきてください」という形を繰り返しているのがわかった。
その間にもタケさんはお鈴を鳴らし、やがてイラタカ数珠を手に絡めて、じゃらじゃらとかき鳴らし始めた。イラタカ数珠は古銭や動物の牙なども一緒に繫がれているため、一般的な数珠にはない金属的な響きが入っていて、楽器の音色のようにも感じる。
イタコが背負っている師匠からもらったオダイジは、イタコが悪霊や生霊に取りつかれるのを防ぐ役割があるといい、イラタカ数珠も牙や骨は同じく霊を呼ぶ際に一緒にとり憑こうとする悪霊などを祓う呪術的な役割がある。古銭は三途の川の渡し賃でもある。
タケさんが何度も言う「一心」は祈りの言葉であり、経の調子を整えるためのフレーズのようにも聞こえた。
