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今まさに自分の目の前で、イタコが霊を降ろしている!
ある時からふと同じ言葉を語りつつも、今までと語っていることが違うような……、語調と声量が男性のような芯のある強いものに変わり、また語る内容も感謝や心配の情を言っていることに気が付いた。
「あの当時は、できればもうひとたび、助かってみたいという心の悔しさも、思いながら、とても別れの悔しさには言葉に言えないほど、残念であったが……」
「何を、ワシに、訊いで、みたいことあるのか? ただ、どうしているかを、確かめの、供養であるのか?」
間違いない。これは死者の言葉だ。
私は感動を覚えた。今まさに自分の目の前で、イタコが霊を降ろしている!
イタコに憑いた霊は基本的に一方的な語りを行うというが、実際その通りであった。ともかく「呼んでくれてありがとう。会えて嬉しい」「もう会えないはずの身であるのに、会えたことに感謝する」「あの頃はとても無念であったが、今は立派になって本当に嬉しい。家族のことや仕事のことをしっかり頼むぞ」という内容を何度も繰り返して強調していた。
ホトケオロシが始まった頃、タケさんはしきりに咳ばらいをしていた。矍鑠(かくしゃく)としてはいるが、なにぶん90歳を越えた老女である。果たして体力は持つのだろうか……と不安な一面もあった。しかし、このホトケオロシの死者の言葉を語る段階に至って、彼女は覚醒したように咳払いも一切なく、ジャラリジャラリと数珠を繰り、頭を振り動かしながら、ひたすら一心不乱に死者の言葉を語り続けるのである。
