妊娠には男女二人の当事者がいるが、女性のみが絶望的な恐怖と痛みと罪を負わされる、それが孤立死産だ。当事者女性には被害者の側面が少なからずある。未受診による孤立死産女性は、罰せられるのではなく保護されるべき人たちだということだ。
事件がどのように動いても、出産直後の女性を長期間にわたり拘束し続けるという、産む性の尊厳が痛めつけられた事実は、赤ちゃんの死因とは関係なく残り続ける。
孤立出産を知らない人が法廷で証言
蓮田氏は孤立出産殺害遺棄事件の裁判支援に携わっている。4件について意見書を書き、12件について弁護側証人として法廷で証言した。私はそのうち7件の公判を傍聴した。
思い出される裁判がある。検察は検察側証人として、孤立出産症例について経験のない産婦人科医を呼んでいた。
赤ちゃんの遺体の司法解剖を行った鑑定医は死因を「不詳」とした。この判断からは、死後相当な時間が経過して腐敗の進んだ遺体から明らかにできる事実には限界があることがわかる。
ところが、検察側証人の医師は「生きて生まれたのちに死んだ=殺人」という検察のストーリーを成立させるために、考えられるさまざまなケースを挙げた。
データとエビデンスに基づいて判断をするはずの医療者が、こと未受診で孤立出産した女性が対象となると、「わからない」ことを「わからない」といわず、医学的根拠に欠ける不確かな証言を重ねたのだ。
孤立出産の加害者と被害者は一体誰か
産婦人科医でも孤立出産に関しては知らないことが多いのだ。同様に、殺人事件捜査の知見が豊富な警察組織が、必ずしも孤立出産関連の事件に精通しているわけではない。
本件では、起訴内容が殺人容疑から傷害致死罪に「格下げ」になった。それは、孤立出産の症例を数多く診てきた知見にのっとって書かれた蓮田氏の意見書を検討した結果、殺人罪では公判が維持できないと認めざるを得なかった、というのが実際のところではないか。
産む性の心身と孤立出産をめぐる繊細で複雑な背景について理解しないまま、未受診女性への加罰意識が作動して機械的に事件化した警察組織に対し、「事実を見る目をアップデートせよ」と反論した、産婦人科医。
ざっくりと、本件の構図はこのようにまとめることができる。
警察・検察は女性を加罰することで誰を救おうとしているのか。
ノンフィクションライター
熊本県生まれ。「ひとと世の中」をテーマに取材。2024年3月、北海道から九州まで11の独立書店の物語『本屋のない人生なんて』(光文社)を出版。他に『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』(文芸春秋)。
