広里 今回はとにかくリサーチに時間がかかりました。幕末から明治にかけての食事情、松江や熊本の食文化についてはもちろんのこと、ヘブンさんまわりの、当時の欧米の食について……などなど。自分でもよく調べたなと思います(笑)。

 それから、当時の日本家屋の陰影を忠実に再現した『ばけばけ』のセットはとにかく暗いので、湯気がなかなか見えづらいんですよ。さらに、使っている器も薄かったりして冷めやすいので、「カメラが回る直前に温かい料理を出す」ということにいつも以上に気を張っていました。「熊本編」に入ってから女中のおクマちゃん(夏目透羽)が毎朝焼いているトーストも、冷めるとすぐに硬くなってしまうので、時間との勝負です。

アメリカ・シンシナティで新聞記者をしていた時代、ヘブンはマーサ(ミーシャ・ブルックス)と家庭を築いた (C)NHK
マーサの作るシチューには、宗教上の理由から動物性の食材が使われていない。ヘブンのために別皿でベーコンを用意していたという設定 (C)NHK

――料理を出す直前の厨房はもう、戦場みたいな感じですか。

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広里 本当に。現場は生き物なので、その都度その都度空気を読みながら動く感じです。先ほど言いました(前編参照)「しじみの口が開いたら一度ザルにあげて、出す直前に汁だけを温めて、しじみを戻し入れる」という手法は、秒刻みのタイミングで湯気を出すためにも役立ちました。

「なぜパイナップル?」と不思議に思ったが実は…

――「これは苦労した」という料理や食材はありますか?

広里 劇中たびたび登場したパイナップルの調達は大変でした。明治20年代というと、めったに手に入るものではありませんでした。大きさも現在のものよりは小さいはずなので、普通のパイナップルよりも小ぶりな沖縄のピーチパイン、それも市場に出たての若いものを使いました。

 ふじきみつ彦さんの脚本には最初から「パイナップル」と書かれていて、その後もたびたび登場するので「なぜパイナップル?」とも思ったんですが(笑)、武士の髷をイメージしていたんですね。「そこにつながるのか!」と思って。これはもちろん他の果物に変更がきかない。しかも「若いピーチパイン」が手に入るのは1年のうちのごくわずかな期間。美術さんと相談して、ところどころ食品サンプルも混ぜながら、なんとか乗り切りました。

生まれて初めて目にするパイナップルと対峙する松野家の人々(C)NHK

――フェイクも混ざっていたとは、まったく気がつきませんでした。ほかには何かありますか?