永瀬は明らかに辛そうだった

 モニターを見ると、永瀬は明らかに辛そうだ。対して藤井は、休憩明けに盤にかじりついて読みふけっていた時とは姿勢が違う。背筋が伸びてしゃんとしている。「解析完了」の顔だ。

永瀬はしきりに頭を抱えていた

 永瀬はやむなく竜を逃がしたが、後は藤井の独壇場となった。先手玉近くにと金が入り、自陣では銀を取りつつ飛車を逃げ、蓄えた駒で寄せに出る。午後5時14分、88手で藤井勝ち。

 対局直後のインタビューでは、藤井は「歩を突かれていい対応がわからなかったので、序盤の手の組み合わせを工夫しなくてはいけなかったかなと」と語り、永瀬は「(飛車を打たれた)形は認識はしていたのですが、思ったよりダメになってしまった気がします」と、互いに正直な感想を述べた。

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終わる気配がない感想戦…盤上に目線が釘付けの2人

 両者で大盤解説会場での挨拶を終え、感想戦に。

 藤井は、44手目に銀を出た手の感触は良くなかった様子で、別の手を検討する。この一手から藤井は苦難の道を歩むことになったが、その銀が最後に働いて詰みとなった。盤上の物語にシナリオはない。

 藤井は1時間23分も持ち時間を残していた。なので余力を残しているかと思ったが、それでもかなり疲れているようだった。A級最終局の解説会のときには、検討室でずっと駒をクルクル回していたのに、今回は1回だけ。

 しかし疲れているのは永瀬も同じだ。対局数が尋常ではない。本局に勝てば、初めて藤井からタイトルを奪えたのだから、無念さはひとしおのはずだ。

 それでもこの終盤戦は面白かったのだろう。先手が王手で金を打つ手に代えて、角を2四に出る手を熱を込めて調べ始めた。やがて藤井が香を打って受ける手を示すと、「これは強敵ですね」と、永瀬と藤井がようやく笑う。

大勝負を終えて、笑顔を見せる永瀬

 その局面だけで30分以上も検討していたが、飛車を取らずに受けに回る手は検討の遡上にすら上がらなかった。互いに「この将棋はこういう方針なのだから」という共通認識があったのだろう。

 感想戦が終わる気配がまったくない。困ったのは立会人の中村だ。終局と同時にスタッフは打ち上げの準備をしている。

感想戦が終わらない。声かけのタイミングをうかがう中村修九段

「もうそろそろ」と中村が声をかけたのは、感想戦開始から1時間10分が過ぎた頃だった。だがそれでも二人の目線は盤上に釘付けのまま。

 しばらくして、ようやく座り直してお辞儀をし、藤井が駒を片付けて再度深い一礼。2日間の激闘が幕を閉じた。中村に「渋々声をかけていましたね」と話すと、苦笑いしながら「良い将棋でしたね。名局でした」と満足げに笑った。