あの手以外では藤井が負けだった
打ち上げの前、近藤に話を聞いた。
「思わぬところで戦いが起きて、永瀬さんがうまくいっているように見えましたが、手順の組み合わせが難しかったですか」
「近藤さん推奨の『金引き』は検討されませんでしたね」と尋ねると、
「永瀬さんは方針の一貫性を意識していたのでしょう。それはとても自然だったと思います。それに、あの自陣飛車以外では藤井さんが負けでしたから。実際指されてみると、本当に良い手でした。あの局面で『次の一手は?』と出題されたらわかるかもしれませんが、かなりも前から視野に入れていたというのは、さすが藤井さんですね」
いえいえ、金引きを見つける近藤さんもすごいですよ。
藤井もライバルも進化を止めない
那須塩原駅に向かうタクシーの車中で、運転手さんに話しかけられた。
「今日の結果はどうなったんですか? 藤井さんが勝った? それは盛り上がりますね」
続けて言う。
「10年以上前に羽生さんを乗せたことがあるんですよ。とても礼儀正しい方でしたね」
そう。藤井、永瀬、中村、近藤。皆、礼儀正しい、いい人なのだ。
本局の永瀬の迫力ある攻め、藤井の曲芸師のような受け、そして絶妙の自陣飛車。見どころの多い一局だった。それにしてもレベルが高い。150キロの球に驚いていたのが、今や160キロの速球が変化してくる。しかもそれを難なく打ち返している。藤井に引っ張られて皆のレベルが上がっているのだ。
藤井も進化を止めない。本局の角換わり拒否もそうだが、増田との棋王戦もそうだ。第1局では棒銀にしたが、先手で序盤に「2七銀」という符号はわずか2局目だ。新しいことに挑戦し、芸域を広げようとしている。
ああ、やっぱり現地で見るのはいいなあ。疲労感はあったが、素晴らしい出演者による壮大なドラマを見たような満足感とともに、大田原市を後にした。
写真=勝又清和
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