「金さん、あなたの言い分もあるでしょう。警察も悪い点はあったと思います。しかし、今はこれ以上、皆さんに心配をかけないことが第一です。早く自首してください」

 23時52分には、名指しされた小泉刑事が「私の扱った事件で迷惑をかけて申し訳ない。しかし、どうか関係のない人を巻き添えにしないでもらいたい」とテレビで謝罪。対して金は暗闇の中、少しでも動くものがあれば容赦なくライフルを浴びせた。

籠城3日目――人質を解放

 翌22日午前5時半ごろ、旅館主から警察に電話が入る。何でも階下10畳の間にいた妻子4人が2階6畳間に移され、金もその部屋にいて、火鉢のすぐそばにダイナマイトの束を置き、ライフルも常に手にしたままだという。午前7時、静岡県警のトップである高松敬治本部長(1920-1989)がNHKで謝罪する。

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 といっても、それは自首を勧める説得のようなもので、金には到底満足できなかったが、同日のNHK「スタジオ102」が金の日記にある訴えを紹介したのを見て、これを評価し午前8時半、ふじみや旅館経営者の妻とその子供3人を解放。しかし、妻は「旅館のお客さんに悪い」と言って、自ら宿に戻っている。

 金はこの日から共同記者会見を重ね、全国民の注目を集めることに成功した。各テレビ局もワイドショーのスタジオから、ふじみや旅館に電話を入れ金の訴えを生で放送。これを見た視聴者から「自殺するな」「ともに闘おう」「金さん、もっと頑張って」という声が多数あがった。

 籠城当初に見られた緊迫感は薄らぎ、カメラマンや記者なども銃を持って戸外を警戒している金に対し「金さん、ライフルを空に向けて射ってくれませんか」と要望し、それに応えた金が空に向かって数発、乱射しているところから、慌てて上昇して逃げるヘリコプターの映像を意図的につなげ、いかにもそれらしい演出を施した。