雲行きが怪しくなってきた。娘の自慢ならともかく、自分の経歴をふりかざすような親はどうかと思うが、といって本音を出すのも大人げない。
「立派なお父様がいらして、娘さんも幸せですね」
当たり障りないよう相手を持ち上げたが、話の方向性は私の思いとずれていく。
「立派かどうかはわかりませんが、私はM市に家が2軒あるんです。そのうち1軒は、娘が結婚したら住まわせようと思っていましてね。だから早くいい婿を捕まえろって、散々言ってきたんですよ。なのに娘ときたら全然女らしくなくて彼氏もできないし、30半ばになってもアニメやゲームが好きで、あれじゃあいつ婿を迎えられるのかと心配です。あっ、もちろん婿と言っても、婿養子を取るという意味じゃないですよ。今はサラリーマンも経済的に大変だし、嫁の実家が家を用意するなら助かるだろうと、そういう配慮ですから」
悪気はないのだろうが、自分の娘を「女らしくない」、平然とそう言える感性に引いてしまう。翻って娘の「婿」には男らしさを求めそうだし、自分が用意した家に夫婦が住むという前提ありきもなんだか怖かった。
なにより娘の身上書に貼付された写真の理由がわかった気がした。おそらく本人は乗り気ではないか、あるいは娘の承諾がないまま父親の独断で代理婚活をしているのだろう。だから見栄えのいい写真を用意できなかった、そう考えるとニコリとも笑っていない顔も腑に落ちる。
やんわりと断ってみたが…
「今、お父様のお話を伺って、ウチの息子ではご期待に添えないかなと思いました。勤務先はたいした会社じゃないですし、M市にご用意されているという家に住むことも、たぶんむずかしいのではと思います」
相手の身上書を返そうとした私に、父親は再び愛想を取り戻した。
「いや失敬。今の話はあくまでも親の考えですから。娘の気持ちはまた別ですし、せっかくだから息子さんの身上書を見せてやりたいです。いいじゃないですか、ともかく交換しなきゃはじまらないんですから。息子さんにもぜひウチの娘の身上書を見せてくださいよ。見るからに優しそうな人だし、案外ウチの娘との相性がいいかもしれないでしょう」
なんとも如才ない言い方だ。根が小心者の私はまたも言葉に窮し、気まずい思いを隠すように硬い笑いを作った。父親のほうは息子の身上書をファイルケースにしまう。これで話はついた、そう言わんばかりに顎をしゃくって私を見た。
「では、こちらも娘さんの身上書をお預かりさせていただきます。お時間いただき、ありがとうございました」
人目がなければ自分で自分の頭を小突きたかった。あれほど懸念していたはずが、いざとなったら相手のペースのままに身上書を交換するとはなんとも情けない。その場しのぎで交換したところでうまくいくとは思えないし、双方の子どもにとってはさぞ迷惑な話だろう。
そう考えると最初に会った母親、「年収1000万円」と口にした彼女のほうが、私などよりよほどしっかりしている。あいまいな態度でごまかさず、言いたいことをはっきり伝えたほうが結局はお互いのためかもしれない。