気持ちを立て直す余裕もなく、交流の残り時間を気にしながら、私はまた別の円卓へ向かう。目指す座席に近づくと、「お相手」候補の父親と母親はそろって立ち上がり、律儀なお辞儀をしてくれた。

「歳」を気にする? 「格」が気になる?

「はじめまして。45番の石川と申します。少しお話しさせていただいてもよろしいですか」

「ええ。私共は昨日F県から来て、ホテルに一泊しました。娘と話したら『45番の人がいい』と言うので、ご挨拶をしたいと思っていたんです。先にお声がけいただいてありがとうございます」

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 わざわざ上京し、代理婚活に臨んでいるという二人との会話は穏やかにはじまった。

 兼業農家だった父親の定年退職後に夫婦で農業に専従し、37歳の娘は都内の会社に勤務している。リストの趣味欄には、〈旅行、読書〉とあり、同じ趣味を持つ息子との共通点を考えて候補にしたが、よくよく聞いてみると志向が違った。観光旅行ではなく山歩きや秘境が好きなアウトドア派の女性だ。

画像はイメージ ©yamasan/イメージマート

 おまけに〈会社員〉と記されていた職業も勤務先は世界的有名メーカー、今は管理職で数人の部下を抱えているという。両親の話から察するにいかにもアクティブかつ優秀な女性のようで、私は早くもあきらめモードになった。

 それにしても当の女性がなぜ「45番の人」、つまり長男のリストを見て「いい」と言ってくれたのだろう。

「息子は真面目だけが取り柄の平凡なサラリーマンです。正直、娘さんのようなすばらしい方のお眼鏡に叶うのかなって思うんですが……」

 率直に伝えると、「ああ、それはですね」、父親はそう口にして手元の男性リストを太い指でめくった。

「ほらここ。お宅の息子さんは家事ができるって書いてありますよね? 娘はこれを見て、この人いいんじゃないかな、と言ってたんです」

 父親が指さす「親から見た子どもの長所」という欄には〈家事なども進んで行う〉とあり、それは私が記入した参加申込書に基づいていた。

 仕事で留守がちな私に代わり、息子は幼いころから家の仕事をよく手伝った。学生時代の数年間は海外で、社会人になってからは勤務地近くで一人暮らしをしていたから、掃除に洗濯、料理と一通りの家事はできる。

 コロナ禍で会社がテレワークになると、ひとりの部屋で一日中パソコンに向かうことがつらいと言い出した。テレワークなら勤務地近くに住む必要もなく、アパートを引き払って実家に戻ってきたが、家事への意識はそう変わらない。通勤時間がないぶん、むしろ積極的に掃除や洗濯をこなしている。たくましさとか、格好よさとか、そういう売りには乏しいが、私からすればまぎれもなく「子どもの長所」だ。