最寄り駅まで迎えに来た女性の車に乗り込むと、車内にはタレントの関連グッズや通販サイトの空箱などが雑然と積まれていた。将来の結婚相手が同乗するのがわかっていながら、まるで気を遣った様子は見られない。
訪ねた実家の様子にも驚いた。複数の小型犬がいるとは聞いていたが、通されたリビングルームのソファーはシミだらけ、どことなく臭気もする。廊下には衣類や布団、買い置きの食品などがあちらこちらに置かれたままだった。
「食事を出してもらったんですが、母親は犬を抱いたまま食べるし、父親のほうは僕の目の前でタバコを吸う。肝心の彼女はお皿一枚運ばず、スマホをいじったりしている。僕はそこまで神経質じゃないし、犬だって嫌いじゃないけど、一般常識としてどうなのかと引きました」
もしかしたら自分を気に入らないのか、それともすでに身内気分で打ち解けてくれたのか、武井さんは混乱しながら女性の実家をあとにした。成婚退会し、相手の両親にも挨拶をした以上、今後は正式な結婚に向けて具体的に進めなくてはならない。両家の顔合わせ、婚約や挙式への段取り、新居や新生活への準備など、2人で相談し、協力すべきことはさまざまあるだろう。とはいえ気持ちが高まるどころか、不安のほうが増してしまう。
おまけに成婚退会後は、それまでの担当カウンセラーに相談することもできなかった。これは武井さんが入会していた結婚相談所のルールだが、退会した会員からの悩み相談などは禁止されていたからだ。
「実家の印象だけで、彼女や家族を判断するつもりはありませんでした。人間なんていいところも悪いところもあるし、自分だって彼女から見たらイヤだなって思うところはいっぱいあるでしょうから。ただ、結婚に向けての話し合いを進めるうち、また別の違和感が出てきたんです」
彼女からは〈愛され婚がしたい〉とLINEのメッセージが…
あるとき彼女から〈愛され婚がしたい〉とLINEのメッセージが来た。「愛され婚」とは婚活用語のひとつで、「男性から愛されるようなステキな女性になろう」と女性の在り方を指南するものだ。
たとえば「笑顔でいる」、「感謝する」、「相手をほめたり、自分がほめられたら素直に喜ぶ」、「一緒にいて居心地のよい存在になる」など、要は男性に一方的に求めるだけでなく、女性のほうも努力すれば相手から愛され、ステキな結婚ができる、そんな意味として使われる。本来は女性の誠意を促すための「愛され婚」だが、彼女は違う解釈をしていた。