ひとりにしたことは確かに申し訳なかったし、キャンセルすることもできただろう。一方で自分からしたら、模擬挙式を楽しみにしていた彼女のために精一杯の無理をした。体調の悪い自分を気遣うどころか「思いやりがない」と責められるとは、その人間性が理解できない。式場に併設されたホテルの部屋で「初夜」を迎えるはずが、同じ空間にいることさえ苦痛を感じた。
結婚相談所を成婚退会して4ヵ月後、武井さんは女性に別れを申し出た。彼女からは連日LINEが、また両親からも何度か電話があって責任を取るよう迫られた。やむを得ず弁護士に相談し、「婚約不履行」という名目で80万円の慰謝料を支払った。このうち30万円は女性が成婚退会する際に結婚相談所に収めた成婚料の弁償、要は武井さんが2人分の成婚料を負担しながら破談したことになる。
「彼女を傷つけ、大切な時間を無駄にさせたことは本当に申し訳なかったです。ただ、自分勝手は承知の上で、あのまま無理して結婚しなくてよかったとは思いますね」
「僕は仕事でも辞めたら、本当にひとりぼっちになりそうです」
武井さんは女性との交際中、「この人を好きだと思えるかどうか」という葛藤を抱え、最終的に「好きになれない」と思って破談した。お互いにもっと時間をかけ、相手を深く知ることができれば、また違った結果だったかもしれないが、交際期間の制限や性的関係が禁止されている結婚相談所のルールとしてはむずかしい。
「またイチから婚活しようなんて気持ちにはなれないです。まぁ自分なりにやるだけやってダメだったんだから、この先の人生を充実させていくしかないですね。でも僕は仕事でも辞めたら、本当にひとりぼっちになりそうです」
そうして2台のスマホを取り出し、武井さんはそれぞれLINEのホーム画面を開いてみせた。1台は会社支給の業務用で、200人以上が「友だちリスト」に登録されている。もう1台の私用スマホの「友だち」は全部で12人、家族や学生時代の友人だけだ。
かつては私用スマホで、マッチングアプリや結婚相談所を介して知り合った多くの女性とメッセージ交換をした。相手側からブロックされたり、自分が削除したり、ついには破談になって誰ひとり「友だちリスト」には残っていない。
「あれだけ婚活やったのに、結局は自分がダメなんですかねぇ……」、武井さんは深いため息をつき、どこか作ったような笑いを浮かべた。