「愛されていることを形で示してほしいと言うんです。たとえば映画みたいな感動的なプロポーズをしてほしい、婚約指輪は○○ブランド、結婚式は海に面したチャペルか人気式場のガーデンウエディングなんて希望を出してきて。女性だからいろいろ憧れがあるんでしょうが、40近い年齢のわりにまるで若い子のノリでした」
彼女の願いを叶えるためには相応の費用や準備が必要だ。そういう現実的な話題を振ると、急に不機嫌になったりするからたまらない。何度か話し合いを重ねたが、彼女の望む「愛され婚」とは「私は彼にこんなに愛されているのよ」、そう周囲に見せつけたいようにも感じられた。
無理をしてでも相手の思いを尊重したほうがいいのか、それとも自分の意見を率直に伝えるべきか、考えれば考えるほどストレスが溜まっていく。それでも武井さんは「彼女と別れよう」とは容易に決断できなかった。
7年という時間、総額600万円にも上る費用を費やしてようやく成婚退会した。ここまできてダメになり、また振り出しに戻って婚活を再開するくらいなら、多少の違和感は飲み込んでも結婚したほうがいい。それは自分だけでなく、彼女にとってもそうだろうと考えたからだ。
別れを決断させた「決定的な出来事」
そんな武井さんが別れを決めたのは、女性と一緒に出かけたある式場での模擬挙式体験がきっかけだ。模擬挙式とは、結婚を予定している男女がチャペルを見学したり、ウエディングドレスを試着したり、披露宴で提供されるフルコース料理を食べたりするもの。武井さんは彼女の希望で「宿泊付きブライダルフェア」、つまり式場に併設されたホテルで一泊するというプランを申し込み、およそ10万円を支払った。ところがここでも思いがけない出来事に直面する。
「実は前日から吐いたり下したりと体調が悪かったんです。当日はかなり無理をして行ったのでフルコースなんて食べられないし、会場内を歩くのもつらい。彼女には事情を話してあったし、ヘタに無理して迷惑をかけるのも悪いからと、僕だけ部屋で休ませてもらいました。そしたらあとから来た彼女がキレたんです」
まわりはみんなカップルなのに、自分はひとりでドレスの試着をしたり、食事をとったりして恥をかいた。私に対する思いやりがあれば、無理をしてでもつきあうはずだ。楽しみにしていたのに気分は最悪。そんなふうにむくれる彼女を見て、武井さんは埋めようのない溝を感じた。
