再婚相手が次々に死亡、4人を毒殺した罪に問われ死刑判決が下りた筧千佐子(2024年に死亡)。被害者は10人超とも報じられ、「後妻業の女」とも呼ばれた筧は殺人の理由について「差別」と答えたという。一体どんな差別が、彼女を大量殺人に駆り立てたのか。
多くの死刑囚を取材してきたノンフィクションライター・片岡健さんの新著『実録 死刑囚26人の素顔』(宝島社)から、一部抜粋してお届けする。
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第一印象は「どこにでもいる老女」だったが……
人を殺めながら、罪の意識を感じている様子が一切見受けられない者がいる。「後妻業」と呼ばれた筧千佐子もそういう人物だったが、面会中、人間らしい一面を垣間見せたこともあった。一体、どれが本当の筧千佐子だったのか。私はいまだにわからない。
私が筧千佐子と初めて面会したのは2017年12月15日、京都拘置所においてだった。千佐子はこの日、上はニット、下は八分丈のジーンズというラフな服装で面会室に現れた。短めの髪は大部分が白く、化粧をしていない顔はシワとシミが目立った。何も知らなければ、どこにでもいそうな普通の老女にしか見えないような女性だった。
私が「はじめまして」と挨拶すると、彼女は「あなたのこと覚えてるよ」と言った。予測不能な言葉であったが、私はすぐに合点がいった。千佐子は逮捕後に認知症を発症していたことを報道で知っていたからだ。
そこで「お会いするのは今日が初めてですよ」とやんわりと返すと、千佐子は何ら悪びれることなく、こう言った。
「私、健忘症なんです。だからノートに、いつ誰に会ったとか、“評価”とか書いてるんです。それで、“イヤな奴”と書いてる人間は会わない。あなたのことは“イヤな奴”と書いてなかったんで、面会室に出てきたんです」
私はこの日面会に訪ねるまでに千佐子と何度か手紙のやりとりをした。そのため、千佐子のノートに、私の名前も書いてあったようだ。
ただ、もらった手紙を話題にすると、千佐子は「私があなたにお手紙を出してた!?」と戸惑ったように言った。認知症は思ったより進んでいるようだった。
