殺人の理由を問われると「ベッピンかブスかで差別された」と……
千佐子は戸惑った表情を見せ、こう答えた。
「何人って……今、ノートに書いたやつはないから」
――マスコミでは、10人以上殺したように報道されていましたが?
「マスコミは『人の不幸は蜜の味』で何でも書きますからね。それだけの人を一体、いつ殺すんですか? 私は、確かに筧さん(=筧勇夫さんのこと。以下同じ)は殺しました。でも殺したのは筧さんだけです。それは声を大にして言います! 他の人は殺す理由がないですから」
――では、筧さんを殺した理由は何ですか?
「差別です」
――差別?
「ベッピンかブスかで差別されたんです。筧さん、前に付き合ってた人には、ン千万円のお金を渡しているのに、入籍もした私には一銭もくれなかったんです」
千佐子は真顔だったが、この話は信憑性を欠いていた。というのも、千佐子は結婚翌月に筧さんを殺害したうえ、筧さんと結婚直後に別の男性と交際を始めていたことも判明している。
さらに筧さん殺害の2日後、業者に手提げ金庫の開錠を依頼し、翌月以降も複数の金融機関から現金の引き出しを試みていた。これらの事実関係からして、千佐子が金目的で計画的に筧さんと結婚し、殺害したのは明白だった。
一方、他の3人について、千佐子は「みんな体が弱かったんです」と言った。
「末広さんは私がいつも車で病院まで送迎していたんです。私があの人にどれだけお金をつぎ込んだか……日置さんとは入籍していませんが、私はあの人を車で病院に運ぶために一緒になったようなもんでした。本田さんは普通のサラリーマンで、殺して金をとろうと考える対象と違いますよ」
千佐子は、よどみなくそう話した。だが裁判では、千佐子が日置さんの死により約1500万円、本田さんの死により約2000万円の遺産などを手にしたことがわかっている。末広さんから投資目的で約4000万円を預かっていたのも判明済みだ。
千佐子は認知症で、全部忘れたのか。それとも、人を殺すことや噓をつくことに罪悪感を覚えない人間なのか。千佐子の心の闇は思ったよりも深いと感じた。