これは台湾国家衛生研究院のチームによる研究で、1996年から2008年にかけて受診者の健康診断データを収集し、自己申告による身体活動量と、その後の死亡率を突き合わせた大規模コホートである。

特徴的なのは、活動量を「メッツ時(MET-h/week)」という指標に換算して定量化した点である。「メッツ(MET)」とは、安静時の消費エネルギーを1としたときの運動強度を表す単位で、たとえば早歩きは約4メッツ、軽いジョギングは6メッツ程度とされる。

これを時間で積算したものが「メッツ時」であり、1週間あたりの総運動量を示す。一日15分程度の軽いジョギングや早歩き、あるいは体操程度でも、1週間あたり約90メッツ時に相当し、それだけでがん死亡率を有意に下げる効果が観察されたのである。

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しかも活動時間が増えるにつれて、寿命延長と死亡リスク低下の効果は、用量‐反応関係で確認された。一日15分に、さらに15分以上運動を増やすごとに、全死亡リスクで4%、がん死亡に限っても1%の低下が認められたのだ。これは偶然ではなく因果的関連であることを支持する強力な証拠である。とくに一日30分以上運動する群では、がん死亡リスクは27%も低下していた。

やせ型の人でも運動には健康効果あり

これら2つの研究は、規模・方法論ともに国際的に評価されるもので、米国・欧州の統合解析は、運動が普遍的に「多部位がんに共通する予防因子」であることを示し、台湾のコホートは「少しの運動でも確かな利益がある」という実生活への適用性を示した。

すなわち、運動は高価な薬剤や複雑な治療に匹敵する「万人に開かれたがん予防薬」であることが、疫学的にも裏づけられたのである。

さらに、WCRF/AICRでは、身体活動とがんリスクの関連について、複数の部位で「確実(convincing)」あるいは「ほぼ確実(probable)」と評価している。とくに大腸がん、閉経後乳がん、子宮体がんでは、日常的に身体を動かしている人ほど発症リスクが低いことを示す一貫したエビデンスが蓄積している。また、国際がん研究機関(IARC)も、身体活動の促進が、がん予防に寄与する重要な行動要因の一つであると位置づけ、がん予防の国際的指針としてもこの見解を支持している。