欧米とまったく異なる右派市民像

 一方、男性はどうでしょうか。欧米の先行研究とは異なり、右派市民に多いのは非大卒層ではなく、大卒男性であることがわかります。非大卒男性が多いのは伝統的な家族・性規範を重視する伝統主義者のみです。ほかのタイプでは非大卒層はそこまで目立ちません。

 愛国主義者には年代を問わず、大卒層が多く含まれています。もちろん、大卒層の全体が右派的なわけではなく、回答者全体と比べると愛国主義者には大卒層がやや多いということです。排外主義者は年齢や学歴による特徴はあまりみられず、回答者全体と似たような分布になっています。一方、反左主義者は高年層ではさほど多くなく、若年・中年の大卒層に目立って多いことがわかります。

 この結果をふまえると、(1)右派市民といってもそれが何を指すのかによって属性的な特徴は異なる、(2)男性と女性で右派市民と学歴との関連は異なり、とくに大卒男性への着目が必要だといえます。

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 大卒層は非大卒層と比べて、政治や社会に対する関心が強い傾向にあります。政治や社会についてさまざまな問題意識を持つため、(持たない人々と比べると)右派市民が多くなるのかもしれません。

補表 左派市民の性・年齢・学歴別構成比

 [補表]は左派市民についても同様の分析を行った結果です。全体的な傾向として、やはり左派市民にも大卒層が比較的多いことがわかります。

 ただ、それ以外の部分では、右派市民と左派市民の特徴は大きく異なります。(1)右派市民に女性は少ないが、左派市民にはそれなりに多くいる。(2)愛国主義者はどの年代の大卒男性にも多いが、非‐愛国主義者は高年層に大きく偏っている。(3)反左主義者は若年・中年の大卒男性に多いが、親左主義者は高年層に偏っている。こうした違いが目につきます。

 左派市民の特徴はいろいろと興味深く、その理由を考察したくもなりますが、ここは右派市民の特徴を理解することに専念しましょう。右派と左派で違いが大きいことから、右派市民における大卒男性の多さは、政治・社会への関心の高さのみでは十分説明できません。

 くわえて、左派市民との比較から、右派市民には年齢の偏りがあまりないことも特徴として指摘できます。つまり、左派的な志向性はおそらくは戦後民主主義の世代的経験とかかわるのに対し、右派的な志向性は世代的経験に限定されないものであることが示唆されます。

 それにしても、右派市民に男性大卒層が多いというのは、欧米社会からすると、にわかに信じがたいことです。穏健保守層とは違って、極端な考え方は、反知性・無教養あるいは社会的・経済的な地位の低さゆえのルサンチマンなどから発生するというのが定説だからです。

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*1 第3章から第5章までの分析については、統計的な検定を行い、有意な関連、つまり統計的にみて明確だといえる特徴がみられた部分のみに限定して記述しています。検定に関する細かい記述は省いていますが、恣意的な基準によるものではないという点をご理解ください。

*2 三宅一郎『現代政治学叢書5 投票行動』東京大学出版会、1989年

*3 中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム 調査から見る世論の本質』新泉社、2021年

*4 樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』(名古屋大学出版会、2014年)。樋口直人ほか『ネット右翼とは何か』(青弓社ライブラリー、2019年)

*5 このカテゴリの作り方は、吉川徹『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(光文社新書、2018年)を参考にしました。

*6 表中の太字は全体の傾向と比較して割合が多いと認められるカテゴリ、グレーは少ないと認められるカテゴリを示しています。いずれも統計的な基準によって判断しています。なお、これ以降の図表でも同様の基準を用いた表示を行っています。

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