なぜイランはアメリカとイスラエルによる相次ぐ要人暗殺にもかかわらず、体制が崩壊しないのか。40年にわたり中東外交の最前線に立った元イラン大使・齊藤貢氏が、「狂信的な神権国家」というイメージとはかけ離れた「官僚国家」イランの実像と、戦争の落としどころを語った。(全2回の1回目/続きを読む

※この番組は3月19日に撮影されました。

【元イラン大使の“イラン攻撃・終戦シナリオ”】勝敗によらず「中東の秩序が変わる」|イラン・イスラエル・トルコ3国の関係|イランは“独裁型”政権|メンツがつぶされ“強硬化”【齊藤貢】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年3月21日配信)

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「ベネズエラのユーフォリア」が通用しない

 文藝春秋PLUSの番組「速報解説!ニュースの論点」に、元イラン大使で関西学院大学客員教授の齊藤貢氏が出演し、イラン情勢について解説した。齊藤氏は1980年に外務省に入省して以来、イラン・イラク戦争からイラク戦争まで中東の主要な事件に現場で向き合ってきた人物である。

 アメリカとイスラエルはハメネイ最高指導者をはじめイランの指導層を次々と殺害しているが、齊藤氏はこれを「ベネズエラのユーフォリア」と呼ぶ。ベネズエラではマドゥロ大統領を拉致したことで独裁政権が崩壊した。「“柳の下にドジョウは二匹”と考えてイランでも同じやり方をしたら、うまくいっていない」。その理由について齊藤氏は、イランが約100年前のカージャール朝時代から官僚制度を整備してきた歴史を挙げる。

「ある指導者を殺害しても、次の指導者がすぐに現れてくる。それは官僚制度がしっかりしているからです」

「イランはチェスを指し、トランプはポーカーをする」

 齊藤氏が強調したのは、イランに対する一般的なイメージの誤りである。

「イランというと、狂信的な聖職者が支配している神権国家だと思われがちな印象がありますが、それは誤りです」

齊藤貢氏

 実例として、殺害された国家安全保障最高評議会のラリジャニ事務局長が工科大学の数学科出身であったことを挙げ、「イランの指導層は理系的な、極めて合理的な人たち」と述べた。

 この合理性を表す比喩として、齊藤氏は「イランはチェスを指す。トランプ大統領はポーカーをする」と語る。イランが論理的に局面を読もうとする一方、トランプ大統領はブラフをかける。ゲームのルールが異なることが危険の本質だという。

 イラン指導者の暗殺が続けば、後任は「金太郎飴」のように出てきつつも、その質は「どんどん劣化していく」。経験不足の人物が判断を下すことで「致命的なミスを起こす恐れがある」と齊藤氏は警鐘を鳴らした。