大切な記憶は愛おしい記憶になる——難病の子どものいる親友の一家の日々を細やかに追った、胸をうつドキュメンタリーが話題だ。「たとえ短い時間だったとしても、幸せに暮らしている俺ら家族を撮ってほしい」。そんな親友の言葉を受けて、安楽涼監督は一家の辛さも喜びも、丸ごと受け止めるような映画に仕上げた。ジャーナリスト・相澤冬樹のレビュー。

『ライフテープ』

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生まれた子が12万人に1人という難病に

 赤ちゃんが、泣き止まない。ただならぬ叫び声が響き、観ていて切なくなる。鼻には栄養補給のチューブが通され、ほっぺたにテープで固定されている。名前は珀久(はく)。12万人に1人と言われるメンケス病だ。体に必要な銅が欠乏する難病で、飲み込む力が弱く自力で栄養が取れない。痰の吸引も必要だ。父親の隆一がつぶやく。

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「きょう一番ひどいわ、いや~」

 母親の朱香(あやか)は語る。

「最初は今みたいに泣いてただけで救急車とか呼んだりしちゃってたし、家でみていい許容範囲もわかんなかったよね」

『ライフテープ』

 専門機関らしきところに電話で相談すると、「環境、変えてこいって……」。夫婦で珀久を連れ散歩に出かける。どうなることかと思っていると、予想外の動きを見せる。朱香が路地から出たところで、ベビーカーを押す隆一に手を伸ばし制止した上で、早く自分の方に来るよう指示するのだ。観ていて一瞬何が起きているのか理解が追い付かないが、「あいつが来るって」という言葉が聞こえる。どうやら誰かに追われているという想定で、夫婦でおどけているようだ。

『ライフテープ』

「まっすぐ行って右に曲がったらいい。気を付けろよ」

 朱香の言葉に隆一も「少年野球のコーチ(みたい)」と笑って返しながら笑顔で合わせる。指示通りに行動すると朱香が「よし!」と声をかけ、2人で笑顔を交わす。まるで漫才のボケとツッコミだ。珀久もいつの間にかすやすや眠っている。激しい泣き声から家族の安らかな場面へつながる展開に思わずうなってしまう。常に笑いを忘れない。それが幸せの秘訣なのだろう。