被写体と監督の信頼関係

 この映画のもう一つの見どころは、家族3人の暮らしにとことん密着していることだ。これは被写体と監督の信頼関係なしには成り立たない。安楽涼監督と隆一は小学生のころからの幼馴染だ。隆一が監督に家族を撮ってほしいと持ち掛けた際のシーンがある。夜中に隆一が路上で車の運転席に座って監督を待っていると、監督がカメラを回しながら近づいていく。

『ライフテープ』

「お前か?」
「うぃ~ッ」
「俺を呼び出したのはお前か?」
「何で撮ってんだよ?」
「俺の日常を忘れてるだろ」

 監督は助手席側に回り込んで車に乗り込む。

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「おはようございます」
「うぃ~ッ、ごめんね」
「ああ、ぜんぜん余裕」

 深夜に呼び出されてもすぐに親しく言葉を交わせる仲だからこその撮影だろう。隆一はストリートダンサー、アーティストで、監督は彼のミュージックビデオの撮影もしている。その途中、監督が隆一に家族の撮影についてこんな話をしている。

「俺が言っていいもんなのかわかんないけど、時間は経っていくじゃない? ちゃんと撮り始めないと完成しないと思うから、あとあと後悔する気がする」

『ライフテープ』

下町・西葛西に吹く風

 珀久に残された時は限られているだろうという想定の話は、よほど近しい関係がないとできない。これが作品を生んだ背景にあると思う。そしてこの場面で流れる隆一の歌に「西葛西」という地名が出てくる。東京都江戸川区西葛西。東京東部の下町で彼らは生まれ育った。深夜、隆一と監督が待ち合わせた場所も西葛西だ。実は私が今住んでいる建物がこのシーンにチラリと映り込んでいる。監督がこの辺りに暮らしているなら、ご近所さんということになる。

 西葛西はリトル・インディアとしても知られる。IT技術者の移住を機にインドの人が多く暮らすようになり、サリー姿の女性やインド系の家族連れなど、多様な人々が日常生活を送っている。地元を愛する若者たちの絆が深いことでも知られる。こうした西葛西のバックボーンが、全編を吹き渡る“爽やかな風”のような明るさを醸し出している。最後の珀久と隆一のシーンにもそれを強く感じる。清々しい余韻を残してくれる映画だ。

『ライフテープ』ポスターヴィジュアル

『ライフテープ』
監督・撮影・編集:安楽涼/出演:隆一、朱香、珀久、フィガロ/プロデューサー:大島新、前田亜紀/音楽:RYUICHI(EP「LIFE TAPE」より)/製作:すねかじりSTUDIO/制作協力:ネツゲン/配給:東風/2025年/日本/101分/©『ライフテープ』製作委員会/公開中

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