身代金目的の誘拐事件でありながら、犯人は金を手にすることなく人質を殺害した。そこには、警察の追跡でも偶発的な事故でもない、“ある歪んだ発想”があった。昭和35年に起きたこの事件は、のちに報道のあり方すら変えることになる。エリート歯科医が7歳の少年に目をつけ、追い詰められ、そして最悪の決断に至るまで――その全貌を、鉄人社の新刊『高度経済成長期の日本で起きた37の怖い事件』よりお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

◆◆◆

最悪の結末

 今まで見たこともない子供に不信感を募らせた大家が尋ねると「おじさんと一緒に目黒から来た。頭が痛いから寝ていた」のだという。大家はてっきり親戚の子供なのだろうと思い、「じゃあ坊や、おとなしくお利口にしているのよ」と告げ主婦と一緒に家を出る。

ADVERTISEMENT

 ところが、17日の夕刊に踊る「天地堂の長男誘拐される」「二百万円出せ。登校途中を狙う」「金出せの脅迫電話。社長脅される」などの見出しを目にした主婦は、もしかしたらあの子がと、18日朝、警察に申し出る。

 主婦の証言から、子供は雅樹ちゃんで、本山が犯人の可能性が高いと睨んだ警察は同日午後から本山を張り込む。

 20時半過ぎ、家の前に停まっていたルノーが急発進。高井戸署のパトカーがそれを追うが、同乗していた刑事課長に急用ができたため、そのまま本山をやり過ごすという信じられない大失態を犯した。