大賀を激怒させる

 出井は大学4年生の時、就職活動でソニーを会社訪問した。その際に対応してくれた人事部長に、「もっと偉い人に会いたい」と言った生意気な学生だった。入社に際しても、入社後に欧州への留学を認めてくれるのならば入社すると条件を会社側に突きつけたほどだった。

 留学後、スイスの小都市ツークに駐在した。ツークは当時のソニー欧州の本拠地だった。その時にはこんなエピソードを残している。出井がツーク駐在中に東京本社から出張にやってきたのが、わずか34歳にして取締役となっていた大賀だった。大賀の入社に際して、盛田、井深が三顧の礼をもって迎えたという話は広く社内に流布していた。加えて大賀は自信満々な言動、大柄な身体つきからすでに暴君のように恐れられていた。

 大賀はオランダ「フィリップス」社との技術提携のために欧州に来ていた。フィリップス社との提携話を自信満々に語る大賀に対し、出井は臆することなく、異を唱える。

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「その(技術)提携はソニーの技術が一方的にフィリップスに流れるだけで、やめた方がいい」

 怒ったのは大賀だった。自信満々で語った話を満座の中で否定された大賀は、出井に向かって、「お前みたいな奴はとっとと日本に帰れ」と怒鳴った。

 後日、東京本社の人事部から国際電話がかかってくる。電話の相手は人事部長だった。

「大賀取締役がカンカンで、『出井を欧州から日本に帰せって。あんな奴は欧州に必要ない』って激怒しているんだよ。何があったのか教えて欲しい」

 出井は事情を詳しく説明した。話を聞き終えた人事部長はこう言った。

「出井の方が正しいようだけども、言い方ってあるじゃないか。皆の前で言い返されると大賀さんも……」