ずっとアウトサイダー
会社訪問で人事部長に「もっと偉い人に会いたい」と臆面もなく言ってのけたのと同じである。悪気はない。ただそう思ったからそう言っただけだ。たしかに、出井は生意気だったのだろう。しかし、相手を困らせようとか怒らせようという意図はない。
フランスでの合弁相手探しでも、従来の代理店に不正の影を感じ取ったがゆえに契約を打ち切ったまでのことだった。なぜなら、ソニーに損害をもたらしていたからだ。自分の信じた道を進み、会社の利益を考えて出井は判断した。けれども、それに対し会社は、左遷という回答を出してきた。
「そりゃ、落ち込んだよ。相当、落ち込んだよ。年齢的にもこれからって時でしょう? 本当にがっかりしましたよ。僕だってもうサラリーマン人生は終わりだって思ったし、真剣に会社を辞めようかと思ったもの」
でも、辞めなかった。なぜか?
「う~ん、なぜだろうね」
出井は組んでいた両腕を解いて、コーヒーに手を伸ばすと何口か含んでから続けた。
「たぶんね、絶対に愚痴は言うまいと誓ったんだと思う。愚痴や不満を言ったらおしまいだと自分に言い聞かせたような気がする」
出井がいみじくも、“会社という組織はこういうことをするのか”と吐露したように、組織としての会社を骨身にしみて理解できたことで、自らの節を曲げるのではないけれども、主張するタイミングや場所など、発言に注意するようにもなったという。
カドが取れたのか?
「カドなんて取れやしないよ(笑)。これ以降も、出井は異論ばかり言うって社内では認知されていたし。僕はずっとアウトサイダーだったから……。煙たがる人もいたと思うけど、逆に俯瞰的に会社のことを見られたりもしたかなって今は思う」
出井はなぜか楽しそうだった。