昼の営業でわーってなって、つい“作業になりがちな精神状態”に
村田 ふだんあまり何も言わない大将のことばで印象的だったのは、「どうやったらお客さんが喜んでくれるかを第一に考えろ」。すごくシンプルな一言なんですけど、昼の営業でわーってなってるときはどうしても、自戒の意味も込めて、作業になりがちになっちゃうじゃないですか。
笠原 よくないパターンよね。
村田 未熟さゆえに「あーもうあれもやらなこれもやらな」と焦っているところに、仲居さんからは「もう(料理を)あげてください」と言われて、「ちょっと待って、あと5分待てへんか」みたいな。そうするとどうしても自分の負荷を逃がしたいから、淡々と作業にいったほうが精神的に楽じゃないですか。そういうとき、「お客さんがどうやったら喜んでくれるか」のためにこの仕事をしているのに、そこが抜けるんです。抜けちゃいけないんですけど、自分のくるしさから逃げたいために。見透かされたのかもしれないです。
笠原 たぶんね。
村田 大将は、すごいんですよ。そういう状態になっているときにかぎって厨房に来る。
笠原 そこまで達した人はね、予知能力みたいなものがありますよ。いろんな先輩を見てきたけど。
村田 ありますよね。精神状態を見透かされるというか、「どうやったらお客さんが喜ばはるかを常に考えや」って言われて、僕にかぎらずまわりの人間もそうなんですけど、みんなハッとなるので、そこで一段あがりますよね。仕事の内容とクオリティが。
お客さまにうつくしいものを食べていただきたいという思い
笠原 作業になることが僕は大嫌いで、とくに宴会とかね、大量調理にありがちなんだけど、僕らの前には何百人分の料理があっても、食べる人にとっては一対一じゃないですか。
村田 お客さんにしたら100分の100ですもんね。だからそんな無礼なことは本来あってはいけないんですよ。絶対にあってはいけない。
笠原 僕はいろんな料理人さんと仕事をしてきたけど、いい料理人は、作業には絶対ならない。パティシエの辻口博啓さんとイベントをやったときに、コース料理の最後にデザートをわーっと出すじゃないですか。辻口さんのことをすごいなと思うのは、まわりがわーっと盛っているときも、一つ一つ丁寧に盛りつけをして、だんだん自分の盛りつけに酔ってるのかね、「はーっ」て言いながら進まないわけよ。僕はその姿を見て、「これだな」って思ったね。
村田 大量につくっているときでも。
笠原 どんどん盛りつけも変わってっちゃったりするもんね。それはやっぱりお客さまにうつくしいものを食べていただきたいっていう思いがあるからそうするわけじゃないですか。本当に、そういう心意気は大事だなって思いますよ。
文 中岡愛子
撮影 志水隆/文藝春秋
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