『地獄に堕ちるわよ』では島倉を三浦透子が演じており、そのなりきりぶりに驚かされる。三浦は島倉の容姿とは鼻の右下にホクロがあるという以外はほとんど似ていない。しかし、話し方やしぐさなど雰囲気を寄せることで、見事になりきっている。三浦は歌手でもあるだけに、島倉の歌を吹き替えではなく、自ら歌唱しているのも見どころだ。

 とりわけ、債権者が押しかけるなかで島倉が新宿コマ劇場でのショーに出演するシーンは強烈な印象を与える。開演前は不安と緊張からうろたえていた彼女が、いざ幕が上がり、一礼して頭を上げるや表情を一変させる。そして歌い出すとともに歌の世界へとたちまち入り込む姿は官能的ですらあり、思わずゾクッとさせられた。観客は島倉の苦難をすでに知ってのことだろう、スタンディングオベーションで迎えた。ちなみにこのシーンで歌われている曲は橋本淳作詞・筒美京平作曲の「捧げる愛は」(1969年)である。

ドラマ『地獄に堕ちるわよ』(Netflix)では三浦透子が島倉千代子を演じている(Netflix-Japan公式Xより)

ステージで頭を下げると…「負けないで千代ちゃん」

 ドラマでの観客の反応はけっして大袈裟ではなく、前出の自伝によれば、新宿コマ公演の楽日の締めくくりに際し、彼女が涙を流しながら「私的なことでみなさまにはずいぶんご迷惑を……」と深々と頭を下げると、客席の四方八方から「千代ちゃん、頑張れよ! ファンがついてる!」「負けないで千代ちゃん」と声援が飛んだ。さらにはファンが続々と花束を持ってステージに駆け寄り、公演時間が1時間もオーバーするほどであったという。

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 島倉千代子という歌手が、苦境に陥るたび、ファンが応援したくなる存在であったことは間違いない。先述のとおり、声が出なくなることもたびたびあった。最初に経験したのは彼女が21歳になった1959年で、その季節と場所は本人が語るごとに正月の錦糸町の劇場だったり5月の名古屋での公演だったりと変わったものの、おおむね次のようなできごとがあったという。