「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」。京都の老舗旅館「俵屋」に迎えに行くやいなや、車に乗り込んできた世界的大富豪は、子供のように目を輝かせてそう言った。スティーブ・ジョブズから親しみを込めて「ヒロ」と呼ばれたその人は、当時MKタクシーのハイヤー運転手だった大島浩さんだ。

ジョブズに京都を案内した大島浩さん(著者撮影)

 大島さんは、キアヌ・リーブスやレオナルド・ディカプリオから指名を受けるなど、数々の世界的セレブを案内してきた名ドライバー。ジョブズの京都旅行にも4回にわたって付き添っている。そんな彼だからこそ知る、ジョブズの意外な素顔とは——。

 元NHK記者・佐伯健太郎さんの書籍『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(晶文社)より、一部を抜粋して紹介する。(全3回の2回目/つづきを読む

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日本食にも“異様なこだわり”を示した

「日本食が大好きなことはたしかやと思います」

 ジョブズについて、大島さんが最も印象的だったのは、食べ物にまつわることだった。

 ジョブズはアップル本社の社員食堂に、日本食のメニューが多いことを自慢していた。「何があるの?」と大島さんが聞くと、こう答えた。

「枝豆とか、冷奴(ひややっこ)とか、焼き鳥とか。居酒屋ができるな」

 ジョブズは特にそばが好きだった。そして、そばといえば、俵屋旅館の近くにある老舗の「晦庵 河道屋(みそかあん かわみちや)」でなければダメだった。

ジョブズが定宿にしていた俵屋旅館(著者撮影)

 最後の旅行のとき、大島さんは「ほかの店のそばも試してみたら」と勧めて、別のそば屋に連れて行った。そこは、京都らしい雰囲気の店で、大島さんが「満足してくれたかな」と思いながら車の中で待っていると、店から出てくるやいなや、「いつものそば屋へ行ってくれ」と言ってきた。

「何がおかしかったの?」と尋ねると、ジョブズは「そば巻きののりが違う。のりの味が良くない。だから、もう一度あそこで食べ直したい」と言った。ジョブズはそばとともに、おつまみのそば巻きも大好きで、「マキ、マキ」と呼んでいた。

 ジョブズがのりのことにまでこだわっていたので、大島さんは「日本食のことはかなり詳しいんだな」と感心した。

京懐石の最高峰に案内すると…

 食事をする店を選ぶときには、ジョブズなりのこだわりがあった。

 懐石料理の店の前を車で通ったときのことだ。その店は京懐石の最高峰と言われ、玄関は創業時のたたずまいを残し、江戸時代そのものだ。

「ここはどういう料理が専門なの?」とジョブズが聞いた。大島さんが懐石料理だと答えると、「ランチにそこへ行けるか」と聞いてきた。

 大島さんが店の人に席のあきを聞くと、「玄関の床几(しょうぎ)に座ってお待ちください」と言われ、ジョブズ夫妻と3人でしばらく座って待っていた。