「いや、僕は行きたくない」と突然の拒絶

 そのとき、ジョブズが「ところで、ここのランチの料金はいくらなの?」と質問してきた。大島さんが「1万5000円からです」と答えると、ジョブズはすぐさま立ち上がり、「行こう。帰ろう」と言った。

 大島さんがあわてて、「いま、席を用意していますよ」と言ったものの、ジョブズは「いや、僕は行きたくない」と言って店を出てしまった。

 大島さんはビリオネアの意外な一面を見た思いだった。

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お昼に予約した精進料理を即退店

 精進料理の店ではこんなことがあった。

 庭に面した雰囲気のいい部屋を正午に予約し、20分前に着いた。部屋の用意がまだできていなかったため、ジョブズ夫妻は別の部屋へ通された。その間、大島さんは車の中で待っていた。

 すると、店に入ったばかりのジョブズが外に出てきた。大島さんが「何があったの?」と聞くと、ジョブズが「部屋に通されたけど、窓が一つもない部屋で、こんなところで食事はできない」と答えた。ジョブズは予約した庭の見える部屋が、正午からしかあかないことは知っていた。

 大島さんには何が気に入らないのかわからなかったが、ジョブズは「もう、ここはいい。僕はもう帰る」と言ったきりだった。

 大島さんは、「店の雰囲気とか、京都にはいろいろ期待をされていたのかもしれません」と話している。

「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」

 ジョブズと食べ物については、こんな愉快なエピソードもある。

 最初の旅行のとき、大島さんが俵屋旅館に迎えに行くと、ジョブズが車に乗り込んでくるなり、「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」と頼んできた。「朝のジョギング中に見つけたので、そこへ連れて行ってほしい」と。元気だったときのジョブズは、朝、街中をひとりでジョギングしていた。

 大島さんはふつうの「(もち)」のことだと思ったが、ジョブズは繰り返し「モチ、モチ」と言い、「あんこや甘い豆が中に入ったものだ」と言う。しかし、京都市には数多くの和菓子店がある。いきなり「連れて行ってくれ」と言われても、どの店かまったくわからない。

「どこかなー」と、大島さんはうろうろしながら車を走らせていた。人通りの多い南座(みなみざ)の近くに来たとき、ジョブズが「あそこだ、あそこだ!」と叫んだ。