「なんで、叔父さんがこれ持ってんの?」。姪の目を丸くさせた1枚の名刺。そこに記されていたのは、革新的なコンピューターで世界を変えたスティーブ・ジョブズの名だった。
Apple、NeXT、Pixarを設立し、世界最先端のテクノロジーを切り拓いた男が、京都のギャラリーで出会ったのは、陶芸家の釋永由紀夫さん。彼の作品に魅せられたジョブズは、やがて直筆のファックスで作品をオーダーするようになる――。
元NHK記者・佐伯健太郎さんの書籍『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(晶文社)より、一部を抜粋して紹介する。(全3回の3回目/最初から読む)
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自己紹介への反応に機嫌を悪くして…
ジョブズは作品を買ったこの日、釋永さんに初めて自己紹介をした。そして、「プレゼントだ」と言って本を手渡した。それは映画『トイ・ストーリー』の本で、彼は「僕がプロデュースした」と述べた。映画は日本でも前の月から公開されていたが、釋永さんは『トイ・ストーリー』のことをまったく知らなかった。「へー、おもしろそうですね。ありがとう」と述べただけで、受け取った本を脇に置いた。
すると、ジョブズはにわかに機嫌が悪くなった。「ちょっとちょっと、ちゃんと見てよ」とでも言いたそうに、釋永さんに本を持たせ、右隣に立って、「この映画を知らないわけがないだろう」という感じで、「どうだ、どうだ」と、自ら本のページをめくっていった。
最後のほうにある映画の主人公のスケッチのページまできても、ジョブズが「どう思う。どうだ」と聞くので、釋永さんが仕方なく、「あなた、この主人公に似ていますね」と答えると、ようやく納得したようだった。主人公というのは、カウボーイ人形のウッディのことだ。
このときの釋永さんに対するジョブズの反応が、本当におもしろい。僕は釋永さんの話を聞きながら、笑いをこらえていた。ジョブズは、自尊心をいたく傷つけられていたかもしれない。
このあと、ジョブズが帰ることになったので芳名帳に名前を書いてもらった。彼はとても小さな文字で「Steve & Laurene Jobs」と記した。そして、ギャラリーから外へ出る間際に名刺を取り出して釋永さんに手渡した。釋永さんが名刺を一目見てポケットに入れようとすると、それもジョブズは不愉快だったようで、その名刺を取り戻し、「リバーシブルになっている」と言って日本語表記の面を見せた。

