ファックスでのやりとりが始まった
その後、釋永家に直接、ジョブズから電話がかかるようになった。いつも午前7時頃だった。日本とカリフォルニア州との時差は17時間、サマータイムだと16時間だから、ジョブズがいる現地は午後2時か3時頃だ。電話が鳴って奥さんが出ると、男性の声で英語だったので、「はやくはやく、電話に出てよ、代わってよ」と釋永さんをせかせた。釋永さんが電話に出ると、ローリーンに代わってゆっくり話してくれたが、それでもよくわからなかった。「内容をファックスで送ってください。読むだけはなんとかしますから」と英語で伝えると、30分ほどしてファックスが送信されてきた。それ以後、ファックスが主な連絡手段となった。
ジョブズが、釋永さんと出会った京都のギャラリーから電話をかけてきたこともあった。「京都に来た。新作があったら欲しい」と話していた。ただ、それ以外は、どこから電話をかけてきているのか、わからなかった。
釋永さんが51歳か52歳ぐらいのとき、ジョブズから「新しい茶碗が欲しい」というオーダーがあったのでいくつか送ったところ、何番の茶碗が気に入ったから作ってほしいという連絡があった。それが最後のやり取りになった。
そういえば、ジョブズが新版画を購入していた兜屋画廊の松岡さんも、英文のレターをファックスで送っていた。
デジタル最先端のジョブズが、手書きのオーダーをファックスで送信するとは。オーダーを記した紙をファックス機で送っているジョブズの様子を想像するだけでもおもしろい。手で紙を持ってファックス機に注意深く挿入しているジョブズって、いったい、どんな表情をしていたのだろうか。
ジョブズは10年の間に4回オーダーをした。それほど釋永さんの作品に惚れていた。僕はジョブズの手書きのオーダーをぜひ見たかったのだが、釋永さんはすべて捨ててしまっていた。
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