「自分には能力がないのでは」

「仕事中に上司から『ぼうっとするな』とよく怒られます。一気に2つ以上の仕事を頼まれると、頭がついていかなくて、どれも中途半端になってしまうんです。頼まれたことを忘れることもあって、自分に能力がないのかなって悩んでて⋯⋯」

 時折視線は泳ぐものの、要所要所でしっかり目を合わすことができ、落ち着いて椅子に座っている。

「先輩からは『キミは絶対、発達障害だよ』って言われて⋯⋯。ネットで調べたら、ADHDのチェックリストで当てはまることが多かったんです。もしかしたら病気のせいでみんなと同じレベルで働けないのかなって」

ADVERTISEMENT

 発達障害は総合的な評価があって初めて診断される。知識のない人が診断名を断定的に言うなどあってはならないことだ。

 押見さんが差し出したスマホ画面には、製薬会社のサイトにある「ADHDセルフチェック」というページが表示されている。無機質なフォントで『ADHDの特性を持っている可能性があります』という診断結果がある。この製薬会社は私もよく処方するADHD治療薬を販売している。こうした一般向けの診断リストは便利だろうが、意図的に患者を増やして薬品の売上げを伸ばそうとしているようにも思えてしまう。見方を変えれば、これだって“先輩からの心ない言葉”と大差ないのではないか。

発達障害には大きく分けてADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)の2つがある。