ところが、一人暮らしなどで親のサポートがなくなったり、職場で複雑な仕事を求められることで、それまで支障がなかった発達障害の特性が一気に表面化する。職場の要求に応えられずに自己肯定感が減弱し、うつ状態になって初めて精神科を受診し、結果“大人の発達障害”と診断されるケースだ。

 押見さんからは初診時に詳細に聞き取りを行ない、後日再来院のうえ、臨床心理士による心理検査を受けてもらった。同時に客観的な情報を得るために母親からの聞き取りも行なう。正確な診断を下すためには綿密な聞き取りが欠かせないのだ。

彼の診断結果は⋯

 臨床心理士からの情報も踏まえ、私は押見さんを「不注意特性の高いADHD」と診断した。

ADVERTISEMENT

 写真はイメージ ©getty

 後日、来院した押見さんに診断結果を伝える。

「ADHDの可能性が高いと思われます」

 私はできるだけ感情を込めず淡々と説明する。

「そうなんですね」と言った押見さんの声は平板で、驚きも落胆も感じられない。

 ただ目の奥に揺れがあり、この診断を受け入れようと葛藤している心模様が伝わってきた。

「自分のせいじゃなかったってことですよね?」