それからまもなくして、渡辺が行きつけのクラブ経営者の次男と暴力団のトラブルも頼まれ、石井が解決していた。
石井は、庄司にいった。
「おい! そろそろ、株も本格的に手がけよう。加藤暠を渡辺に紹介して、渡辺さんから金を引き出そう。おまえ、前もって渡辺さんと早乙女さんに事情を説明しておけ」
「問題の金だが、渡辺に頼もう」
石井が、誠備グループ代表の加藤暠と知り合ったのは、1977年の秋であった。
加藤は、大衆投資家に人気を博し、取り扱う株は、「加藤銘柄」とさえ呼ばれるようになった。
1979年4月、「誠備投資顧問室」が設立された。加藤は実質的に仕手集団「誠備グループ」の主宰者となった。
石井は、料亭で、加藤を渡辺に引き合わせた。
加藤は、下駄のように四角い顔を前に突き出すようにして、教祖めいた自信たっぷりの口調で推奨した。
「太平工業株は、かならず儲かります」
石井は、渡辺からの金で加藤のいうとおりに太平工業株を買った。
早乙女常務も、加藤情報に一枚乗った。東京佐川急便名義、早乙女個人名義で太平工業株の取引をおこなった。
建設株は、それからというものバブルのあおりで、高値移動しつづけた。
北祥産業にいる石井に、庄司が耳よりな話を持ちこんできた。
「茨城県(西茨城郡)岩間町(現・笠間市)に開発中の、岩間カントリークラブに虫食いの土地がある。手こずっているようです」
石井は、聞いた。
「どこの会社が、手がけている?」
「太平洋クラブです」
「太平洋クラブといえば、平和相互の系統じゃないか……」
石井の目が、光った。
石井は、ただちに、料亭で川崎定徳株式会社の佐藤茂に会い、頼んだ。
「太平洋クラブの開発中の岩間カントリークラブが、虫食いの土地のため手こずっているらしい。どうです、いっそのこと、わたしに譲ってもらえませんか」
佐藤は、おだやかな顔で、うなずいた。
「石井総長の頼みとあれば、すぐにわたしが話をつけましょう」
石井は、佐藤に会っての帰りの車のなかで、庄司にいった。
「問題の金だが、渡辺に頼もう」
庄司が、にやりとした。
「一石二鳥というのは、こういうことですね」