石井は、困惑の様子を隠せなかった。

「かならず、実行させる。しかし、会えないかもしれないよ。門前払いでもいいんだね」

「とりあえず、行かせてください」

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田中邸参りは絶対条件

 石井から抗議の電話を受けた佐川急便の渡辺社長は、ただちに金丸信に連絡し、田中邸参りは絶対条件であることを伝えた。

 金丸は、渡辺に謝罪した。

「すまなかった。竹下君は車を飛ばして行ったのだが、報道陣が多くて行けなかった。わたしが説得して、かならず行かせる。日程は、火曜日6日の朝だ」

 金丸は、10月5日の昼、渡辺に電話を入れた。

「竹下が、最後の最後になって、田中邸詣でを迷っている。夜の九時に東京プリンスホテルに来てくれ」

 その部屋の予約は、竹下事務所がおこなっていた。

 その夜9時から、東京プリンスホテル16階の一室で、金丸、小沢一郎、渡辺、それに、竹下登秘書の青木伊平、さらに、政界のフィクサーとして政治家と佐川や渡辺の間をつないだ元衆議院議員の中尾宏の五者会談がおこなわれた。なお、渡辺と竹下を仲介したのも中尾であった。

 竹下は、この夜、このホテルで開かれた竹下派の田原隆の励ます会に出席していた。途中でパーティ会場を抜け出し、16階の金丸たちが密談している部屋が上がった。

 渡辺の口から、竹下に、日本皇民党が出した条件の説明がなされた。

「稲本総裁は、竹下さんが田中邸に赴き、詫びることを絶対の条件として出してきています」

「もう、総裁選は、あきらめるしかないか……」

 竹下が、肩を落とし嘆いた。

「以前、目白に行ったが、会ってもらえなかった。おそらく今回行ったとしても、だめだろう。それじゃ、あまりのぶざまだ。もう、総裁選は、あきらめるしかないか……」

 竹下は、この年の1月1日の午後0時35分、田中邸を訪ねた。が、門前払いを食らわされていた。

 じつは、すでに田中家に打診をしていた。この会談の前に、小沢一郎が、田中家に電話を入れた。

「幹事長が、目白訪問をしたいという意向があるのだが、どうでしょうか」

 田中家からの信用が厚い、鹿児島県奄美群島選出の衆議院議員の保岡興治が、返答した。

「田中家のほうでは、とてもお会いする状況ではないのでは……」

 10分後、竹下本人から電話が入った。

「お会いしたいと思ったのですが。田中家の事情がそうであるなら、遠慮したい」

 竹下は、一度断られ、しかも、こちらも遠慮したものを、どうして訪問することができるだろうかという気持ちでいっぱいであった。

竹下登

 金丸が、涙を浮かべて𠮟責した。

「何をいっているんだ。経世会は、あんたを総理にするためにつくった会じゃないか。オヤジに反旗をひるがえし、手弁当でやってきたのも、みんな、おまえを総理総裁にするためだろう。がんばれよ」