再びの田中邸訪問にも扉は開かず…
重苦しい空気が流れた。金丸が、結論を下した。
「まあ、行くだけ行ってみよう。だめならだめで、そのとき考えればいい」
竹下は、金丸らに説得され、考えに考えた。翌朝の午前8時3分、黒塗りのトヨタ・センチュリーで田中邸に乗りつけた。冷たい小雨が、しとしとと落ちていた。
田中と同じ新潟県出身の参議院議員である長谷川信が、そこで待っていた。長谷川は、田中の信用も厚く、田中邸に自由に出入りできる1人である。金丸信は、その長谷川に、田中家との間に入ってもらうことにしたのである。
さらに、長谷川は、東京佐川急便の渡辺社長とも親しかった。
長谷川は、あらかじめ打ち合わせのとおり、竹下より15分ほど前に田中邸に入り、田中眞紀子に、竹下が訪問を求めている旨を伝えていた。
竹下を乗せたトヨタ・センチュリーの運転手は、車を停めると、おもむろに「自民党幹事長」と書かれたプレートを、フロントガラス越しに見せた。
はじめに降りたのは、小沢一郎であった。長谷川に声をかけた。
「先生、先生」
それに竹下がつづいて、長谷川に礼をいった。
「ありがとう」
それから聞いた。
「入れないか」
「いや、入ることはできません」
「では、よろしくお伝えください……。あさって、総裁選に立候補します、と」
竹下はそう伝えると、小沢とともに引き上げた。その間、約30秒というあわただしさであった。
門前に残った長谷川は、TBSの蟹瀬誠一記者の前でつぶやいた。
「急だものな……」
皇民党事件の終焉
しかし、稲本の出した条件は果たした。顔を立てることはできた。約束どおり、稲本は、矛をおさめた。
東京佐川急便の渡辺社長は、収拾費用として10億円を石井に出し、そのうち3億円から5億円が日本皇民党に渡されたとみなされている。
皇民党事件で、三本菅は、フジテレビとNHKとテレビ朝日の三局に出演し、事件について発言した。
三本菅は、事件の終わったあと、稲本総裁と大阪のクラブで2人きりで飲んだ。石井の秘書が、石井の車に乗っているときに、石井がいった。
「政治家が、わたしみたいなヤクザ者と会って飯を食っても、まずいだろ。だから、『お礼に食事を』といわれても断る」
さらにいえば、石井は、何かをしたお礼に金銭を授受することはなかったという。何億円といった富を手にするよりも、そのつながりが、自分の仕事になんらかの形になってつながるということだった。