去る5月26日、慶應義塾大学教養研究センター(日吉キャンパス・横浜市)がアーチ株式会社の寄付により開講している講座「エンターテインメントビジネス論:日本アニメの次の10年を展望する」の教壇に、数々のヒット作を手掛けてきたアニメーション監督・谷口悟朗氏が登壇した。『プラネテス』『コードギアス 反逆のルルーシュ』、そして大ヒット作『ONE PIECE FILM RED』、今年の話題作『パリに咲くエトワール』に至るまで、常に刺激的な作品を世に送り出してきた谷口氏。
「演出家からみる日本アニメの変遷と今後の課題」と題された今回の講義では、『鉄腕アトム』以来脈々と続く日本のアニメ産業の構造、表現者とビジネスパーソンの間にある断絶、そしてポストモダンから現代の「ホワイト社会」へと至る観客の精神史をも内包した、極めて批評的な「日本アニメーションの解剖図」が展開された。
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アニメーションを巡る「2つのOS」の衝突――理想と現実の断絶
講義の冒頭、谷口氏は手元の資料を指し示しながら、アニメーションという表現が抱える根本的な「二面性」について切り出した。
「先に言ってしまえば日本のアニメーションといったものは、表現したいという理想と、産業にしたいという現実と、この両方によって成り立っています」
谷口氏によれば、現代のアニメ制作現場で日常的に起きているトラブルの本質は、この「理想」と「現実」の衝突、すなわち人間が持つ「OSの違い」にあるという。
「ほとんどの人はアニメを産業として見る現実側に立っているのですが、彼らは表現者が何を考えているのかあまり分からない。そもそもOSが違うんです。表現者は金儲けはわりとどうでもよく、それよりも、楽しいことやりたい、変わったことやりたいっていうところに気持ちがある。そういう人に現実としてのビジネスの話であったり、福利厚生の話をしても、あまり意味がない。そこで会話が通じなくなり、そこで立ち止まってしまう人たちは結構います」
しかし、この厄介な表現者たちこそが、社会の形を変えていく原動力でもある。
「そういう表現者がいることによって、世の中は更新されていく。常識と思っていることが、移り変わっていく。だから表現者って世の中に必要なんです」
