5/6ページ目
この記事を1ページ目から読む
診察室に入るなり、彼女は弾けるような声でそう叫んだ。目は大きく見開かれ、黒目が異様に潤み、まばたきの回数は極端に少ない。手に持ったONE OK ROCKのタオルを、まるでライブ会場にいるかのように頭上で振り回している。
「退院するにはドクターの話が必要だって聞いて。ドクターが現れた瞬間、後光が差したような気持ちでした!」
タオルを振り回しながら、私が席に腰を下ろす前から話し続ける。相変わらず多弁だ。
「君島さんは今の状態で退院できるとお考えですか?」
「もちろん! だって、こんな元気なんですよ~!」
そう言いながら、芝居がかった表情で持っているタオルをターバン状に髪に巻きだす。以前の彼女ならわきまえているはずの礼節はタガが外れて消し飛んでいる。
「ワンチャン勝てるかも」
「状況に応じた振る舞いができていないのは躁状態が続いている証拠だと思います」
「でも薬のおかげで体がだいぶ動くようになったんですよ。テニスのサーブとかできるようになりました。ちょっとフォーム見てもらっていいですか?」
突然立ち上がり、右手にラケットを持っているように構え、サーブの素振りだ。
「どうですか? 動けてます?」
「動けてはいると思います」
「でしょ? 私って才能ありません? いつか大坂なおみさんと試合したいんですよね。今なら互角に戦える、いや、もしかしたらワンチャン勝てるかも!」