1949年、兵庫県で起きた放火殺人事件。寝たきりの男性ではなく、逮捕されたのは近所に住む34歳の女性・山本宏子だった。生活苦の中、頼りにしていた男性の妻から浴びせられた罵詈雑言。
さらに、宏子がその男性に対して抱いていた「実の父親ではないか」という複雑な感情が、彼女を凶行へと駆り立ててしまう。
裁判の結果、宏子に言い渡されたのは「死刑」。戦後初となる女性の確定死刑囚となった彼女だったが、大阪拘置所での暮らしは、やがて彼女の精神を激しく蝕んでいく。
突然裸で水を浴びるなどの異常行動――死刑への恐怖がもたらした「拘禁反応」の果てに、彼女を待ち受けていた「予測不能な運命」とは? 鉄人社の文庫新刊『戦後まもない日本で起きた30の怖い事件』よりお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
「本当の父親ではないか」
実は宏子は、子供のころから気にかけてくれる福松が本当の父親ではないかと考えていた。実際、そのことを本人に何度か確認したこともあったが、福松は決して否定しなかったそうだ。
こうした複雑な感情もあいまって、宏子は翌10日午前1時半ごろ鎌を手に再び天見家に足を運ぶ。そして寝静まった屋内で金目のものを物色していたところ、物音に気づきカネが起きてきたため咄嗟に鎌を振り上げ殺害。
