1951年春、富美子は大阪から上京、板橋区の志村第三小学校へ転勤すると同時に、結婚を視野に入れ伊藤との同棲生活を始めた。自分は小学校教師で、伊藤は現職の警察官。安定した暮らしが送れるとの見込みがあったことは言うまでもなく、近いうちに富美子の母親と弟も同居するという頼み事を伊藤が快諾してくれたのも安心だった。
富美子の仕事は上京してからも順調で、学校側の評価は高く、児童からも慕われる。が、私生活では予想だにしない現実が待っていた。真面目で優しい、自分に一途な警察官だと思っていた伊藤が同棲を始めてまもなく、実際は極めて素行の悪い人間であることが発覚したのだ。
警察官の夫が豹変
勤務を終えるとすぐ酒に走り、酔うと暴れ出す。富美子は知らなかったが、同棲前には飲み屋で客と口論となり、格闘した挙げ句に拳銃を奪われるという失態を犯していた。
幸い、銃は見つかり大事には至らなかったものの減給処分になり、同棲を始めた当初はその素行の悪さから解雇寸前だった。
伊藤は給料の半分しか家に入れず、女遊びにうつつを抜かし外泊することもしばしば。
借金も抱えており、後に判明したところ、その額7万円(現在の貨幣価値で約280万円)。そんな状態で富美子が憧れていた結婚式を挙げられるわけもなく、本人もその気配すら見せなかった。
当初の想像とはまるで違う同棲生活を送るなか、ほどなく富美子の母シカと弟が上京。同居生活が始まる。
今後は2人の面倒もみなければならない。伊藤とこのまま暮らしていれば破綻は明らか。そこで彼女は決心を固め別れ話を切り出す。と、伊藤は「そんなことを言うなら殺してやる」と拳銃を持ち出し、「逃げても絶対見つけ出す」などと脅してきた。