「研究者の姿がひたすらかっこよかった。これは音楽におけるライブと同じだ! と感じました」
自分にはどうしても解明したい課題がある。そしてここには、課題解決につながる知恵を共有してくれる人たちがいる。だったら……。5日間の学会を見学し終えたとき、山口さんは藤井准教授に訴え出た。
「先生、研究がしたいです!」
ジストニアが起きる原因
山口さんにとって研究とは未知の世界であり、足りないスキルがたくさんあることも承知だった。だが、そんなことは気にならない。勉強と経験を重ねて追いつけばいい。実際、研究の世界に足を踏み入れてからは、エクセルの使い方から学び始め、統計学などの初歩を猛勉強することとなった。
研究者としての視点を獲得した山口さんは、研究チームが進めていた大規模なアンケート調査を論文化することに取り組んだ。豊富なデータを、統計モデルを使って解析していったところ、日本のプロドラマーについてのショッキングな実態が浮かび上がった。
ジストニアと診断されているプロドラマーが、じつに全体の約9%に上るというのだ。診断を受けていない潜在的な患者を含めれば、その数はさらに膨れ上がる可能性もある。
なぜ、これほどドラマーばかりが発症するのか。山口さんらの研究によれば、メトロノームクリック音に対するストレスが、ジストニアを含む、ドラマーの身体不調に関係している可能性があるという。
もう一度、ドラムを叩きたい
近年ドラム奏者は演奏時、テンポをとるためのクリック音をイヤホンを通して聴いていることが多い。現代の大型ライブやコンサートでは、巨大なLED映像や緻密な照明演出、あらかじめ録音された音源と、生演奏をシンクロさせる手法がよく使われる。これらすべての同期の鍵を握っているのが、ドラマーの耳元で鳴り続けるクリック音である。
ドラマーが一瞬でもクリックからズレてしまえば、すべての演出が崩壊する構造だ。ドラマーは完璧なテンポでの演奏が求められ、常に大きなプレッシャーにさらされている。山口さんは言う。