「機械に合わせながら、同時に他の演奏者との調和も保たなければならない。この板挟みの状況に多くのドラマーがストレスを感じていることが明らかになりました。また、統計解析の結果、この“クリックへのストレス”が身体不調の関連因子のひとつとして示されました」
研究によってジストニアの正体に迫る一方で、山口さんの胸の奥には、もうひとつの決して消えない強い欲求があった。「もう一度、音楽家としてドラムを叩きたい」という気持ちである。
ヤマハとの共同プロジェクト
足が思うように使えないのならば、身体のほかのところでバスドラムを鳴らすしくみができないものか。あれこれ代替動作を試してみたが、自分が理想とする演奏からは遠く、しっくりこなかった。
試行錯誤は続き、脳波を通してできないかなど、さまざまなアイデアが出るなか、声を用いてバスドラムを鳴らすのはどうかという案が浮かび上がった。
山口さんはこの思いつきを、10代のころからドラマーとしての自分をサポートし続けてくれたヤマハに持ちかけてみた。
親身に相談に乗ってくれたヤマハから、やってみましょうと快い返事がきた。「Real Sound Viewing」という技術を応用できるかもしれない見込みがあったのだ。
これはライブ演奏のデジタルデータを利用し、無人のアコースティック楽器から音を発生させて、ライブを忠実に再現するシステム。バスドラム本体に独自の加振器を取り付け、電気信号によってヘッドを動かして音を鳴らす技術は、すでに確立していた。入力の部分を発声に変えれば、山口さんのアイデアは実現できそうだった。
そうして2024年7月、山口さんはヤマハとの研究プロジェクト「VXD」(※)を立ち上げた。音声トリガーによってドラムを演奏する世界初のシステム開発を目指すものだ。
※「VXD」の名称は、「声(VOICE)・歌(VOCAL)」と「ドラム(DRUM)」の頭文字に由来。