コミュニティの限界を突破することは可能か?

 そもそも、なぜ同じコミュニティのメンバーは似たような範囲に収束してしまうのか。そこから考えてみましょう。

 あるコミュニティに所属するということは、そのコミュニティに所属するような人生を歩んできた、ということです。偏差値や学部で割り振られる大学はもちろん、会社も、サークルも、あるいは同じ地域で育った子どもたちが通う小学校にすら、そのような側面があります。

 そこでは、ある一定の価値観が文化として共有されている。それこそ偏差値でも、世帯収入でもいいし、どういう場面ではどういう服装をするものか、どのSNSでどういう発信をするか、どういうジャンルの企業に就活するか、なんでもいい。すべての価値観ではなく、そのコミュニティを維持・運営するにあたって重要な価値観こそが、共有され均質化するのです。

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 大学院という組織の本質は、まさしく勉強や研究にあります。そこでは勉強や研究についての価値観は、どうしても均質なものになる。さほど人数が多くなく、なおかつ比較対象がゴロゴロあるわけでもなく、長く続いていて、どちらかといえば閉鎖的になりがちなコミュニティにおいて、とくにこれは顕著になります。

 こうしたコミュニティに所属することは、一面においては安心でもあります。なぜなら、だいたい先輩のようにやっていれば、だいたい先輩のようになることが期待できるからです。

 ただ、「将来どういう研究者になりたいのか」を自問した33歳のわたしにとって、これは不満でした。コミュニティの限界値を超えたかった。これはもはや「先輩に憧れる」といった年齢を通り越した段階で「将来」について考えるという贅沢な状況に恵まれたからこそ、可能なことだったのかもしれません。

 でも、それは統計上は起こり得ないことです。そういうとき、どうすればいいか。

 すこし視点をズラしてみましょう。なぜコミュニティの構成員にとっては、そのコミュニティの統計が限界になるのでしょうか。それは、その統計的な限界が、まさしく「われわれ」の限界だというふうに、われわれが想像する「限界の限界」を規定してしまうからです。

 統計が制限するのは、能力ではありません。想像力なのです。

 なんとかして、その想像力の地平の外側へ、思いっきり突出できないものでしょうか。ここに、努力の量ではなく、努力の方向を変えるという戦略が浮上してきます。

外れ値(はずれち)を叩き出すには、みんなとまったく別の方向へ進め

 研究室でも会社でもチームでもいいですが、みんなが頑張っている集団では、みんながだいたい同じ方向に向かって努力しています。そこで外れ値を叩き出すには、同じ方向に走ってもダメです――あなたが特別な天才かなにかでないかぎり。

 凡庸なわれわれが試してみるべき戦略は、そのベクトルをいったん忘れて、まったくべつの方向に進むことです。近しい人たちから「あいつ、どうしたんだ」と言われるような、ほとんど奇妙にも見えるような勉強にばかり時間を割くこと。

 注意してほしいのですが、これは「逆張り」のススメではありません。逆張りというのは既存の価値観を逆向きにしただけの、きわめて幼稚な戦略です。そうではなく、自分には認識することすら難しいくらい染み付いてしまったコミュニティの文化から解放されるために、方法論として、これまで誰も進まなかったような方向にひとりでずんずん進んでみることが重要なのです。

©Unsplash

 どんな方向に進めばいいのか。どんな方向でもいいです。たとえば本屋で、いつもまっさきに向かうビジネス書の棚ではなく、まったく興味のないゾーン、たとえば、そうだなあ、建築の理論書を読んでみる。そんなことから始めてみればいい。

 ただ、もし指針となるヒントが欲しければ、「そもそも自分ってどうなりたかったんだっけ」という根本的な問いから虚心坦懐に考えなおしてみたうえで、「そういえばこっちだったな」という心の声に素直にしたがうことです。

 それは孤独な戦いです。運が悪ければ、足を引っ張ろうとするやつが出てくる。でもそれは、統計的限界を突破するための必要条件です。コミュニティの構成員から奇異の目で見られるということは、あなたがコミュニティにとって未知の領域に進んでいるということの指標にほかならないのですから。

 もちろん、努力は必要です。でも、ものすごい量の努力によって突出するという戦略の立てかたは、「自分はひとよりもたくさん努力できる」ということを前提している点においてイマイチ。誰もやらないような勉強にエネルギーを使い、群れからはぐれ、しばらく変人扱いされてみる。そうすることで、ようやく自分の所属するコミュニティの均質さが見えてきて、新しい戦略を立てるためのヒントも見えてくる。

 今回はそういうお話でした。

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