SNSでのレシピ投稿が話題を呼び、現在は数々の料理本を手がけるなど幅広く活躍する料理研究家の長谷川あかりさん。そんな彼女でも、結婚したばかりのころは「毎日ちゃんとしたごはんを作らなければ」というプレッシャーに悩まされることもあったという。

 ここでは、7月30日に刊行される自身初のエッセイ『タコ セロリ アボカド』より一部を抜粋してお届けする。長谷川さんが自分の中に設けた「これ以上はしなくていい」自炊のルールの内容とは……。(全5回の1回目)

長谷川あかりさん ©平松市聖/文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

今日、何を作ろう

「何を作ればいいのかわからない」

 自炊をしたことがある人ならきっと、誰もが一度は抱く悩みだろう。

 お惣菜や外食ではなく、できれば自分で健康的なごはんを作って食べたい。けれど、理想の食事を用意する体力や気力は残っていない。結局、食べたいものさえわからないまま力尽き、空腹を満たすためにとりあえずファストフードで済ませてしまう。「明日こそは何か作ろう……」。そんな繰り返しの毎日。

 決して料理をしないことが悪いのではない。むしろ、「もう料理なんてしたくない」と思いながら無理をして作り続けるくらいなら、市販のお惣菜や外食に頼ったほうがよっぽど心身の健康にいいだろう。

 とはいえ、正体不明の罪悪感を抱えたままそれらに頼り続けると、無意識のうちに心が削られていく。自分の心身の状態に適さないものを食べ続けることで自己肯定感が次第に下がり、料理どころか、自分のことまで嫌いになっていく。

 まさに私も結婚したばかりのころ、この負のループにどっぷりとはまり、毎日何を作ろうかと考えるのが苦痛になってしまった。それまでの私はただただ料理が楽しくて、作りたいレシピが多すぎることで悩んでいたくらいだったのに。料理が気儘な「趣味」から日々こなすべき「生活」になったとたん、何を作ればいいのか急にわからなくなってしまった。