芭蕉が句に込めた、衆道の相手への強い愛情

堀田 おそらく俳句を避けている人は、これまで昔の難しい文法や言葉を使った句や格調高い句ばかりを目にしてきたのだろうと思うんですよ。でも実際の俳句はもっと多様です。それを知るだけでも俳句への興味のハードルは下がるはず。ですので今日は、具体的な俳句を少しだけ秋田さんにご紹介したいんです。

秋田 ぜひお願いします!

堀田 まずは芭蕉の恋の句です。芭蕉といえば「奥の細道」ですが、実は芭蕉は恋愛句の名手でもありました。代表的なのが次の句です。

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《白げしにはねもぐ蝶の形見哉》

 この句は芭蕉が、最愛の門人の一人であり衆道の相手であった杜国を想定して書いたもの。杜国を白芥子の花に、芭蕉を蝶に喩えて、「自分の羽をもいで形見として白芥子の花に置いていくよ」と言っています。背景には、中国の古典「荘子」に出てくる胡蝶の逸話があり、つまり「この夢か現実かわからない世界で別れることになるけど、君が憶えていてくれるためなら、命なんて惜しくないよ」という想いが込められている。杜国への強い愛情を感じる句です。今風に言えばBLの世界なんです。

秋田 へえ、これは意外。

堀田 次は時代を下った近現代の、山口誓子の句。

《夏草に汽罐車の車輪来て止る》

 この句は映像的で、モンタージュ技法と呼ばれました。

秋田 本当だ! 動きを感じますね。

堀田 たったこれだけなのに、太陽の光を浴びた青々とした夏草の匂いや、大きな車輪と機関車のブレーキ音、その向こうに広がる景色までもが感じられる。そしてこの景を絵画にするのは案外むずかしい。このように、俳句には絵や音楽では表現できない世界も描くことができるんです。