次は、同じく近現代の中村草田男の句です。
《万緑の中や吾子の歯生え初むる》
吾子は我が子のこと。その子の歯が夏の圧倒的な緑のなかで生え始めたという句です。
秋田 大きな緑と小さな歯が対比されていますね。
堀田 生命力の溢れる緑と子どもの生命が繋がっているように思わせる仕掛けになっています。「万緑」は中国の王安石の詩の一節「万緑叢中紅一点」からとり、草田男が初めて季語として使った言葉です。
秋田 こういう知識がなくてもこの俳句は楽しめますが、知っていると一層楽しめますね。
季語がなくてもインパクト絶大、20世紀最高の句
堀田 最後は20世紀最高の句と言われている、渡辺白泉の句です。
《戦争が廊下の奥に立つてゐた》
秋田 この句のインパクトは絶大です。
堀田 この句は季語のない無季俳句ですが、逆に季語を入れたら陳腐になってしまいます。戦争に季節は関係ないのですから。そして戦争が擬人化され、「立っていた」という口語になっている。この不気味さが深く心に刺さる。誰もが一度聞いたら忘れられない句です。
秋田 それはきっと名句の特徴でしょうね。名画と言われる絵も、一度見たら忘れられない、記憶に残りやすいという傾向があります。
堀田 わかりやすい句を読むと「俳句っていいかも」と思えてきませんか?
秋田 そうですね。「俳句はわからない」と諦めるのではなくて、わかりやすい俳句を読めばいい、と。
堀田 そう、わからない俳句に出会ったら飛ばす(笑)。で、とはいえ少しは理解したいと思ったら、AIに聞いちゃえばいいんです。不完全ですが、辞書を引くより簡単にわかります。
でも絵画の場合は「わからないから次」というのはもったいないですね。


