狙撃兵だけが「部屋に武器を持ち込める」理由
ロシア軍には、基地内の部屋に銃火器を持ち込んではならないという不文律がある。ところが狙撃兵は、銃器や弾薬など何を部屋に持ち込んでも基本的には許されている。戦局が一刻を争う事態に陥った場合、狙撃兵は武器庫に行かずとも慣れた狙撃銃や弾薬を手に、戦地にスクランブル発進する。重要な任務を課されているからこそ、最大限の厚遇を与えられている。
さらにもう一つ、狙撃兵にはロシア軍内における特権がある。部屋で自由にタバコが吸えるのだ。基地内は火気厳禁で、タバコを吸いたければ喫煙所まで行くしかない。司令官であろうとそのルールに従っているが、狙撃兵は銃火器のプロ中のプロと見なされており、喫煙による危険性がないというのが理由だ。
「君がサムライか。的を簡単に撃ち抜いたんだって? 活躍を期待してるよ」
狙撃兵に任命されると、司令官たちが次々と部屋にやって来た。「狙撃兵になった日本人」を見に来るというのも目的の一つだったのだろうが、作戦会議ならぬ“喫煙会議”のために部屋を訪ねてくる幹部も多かった。
そのほかにも、狙撃手はあらゆる面で優遇されており、一般兵士が義務付けられている早朝の試射も参加は自由だった。また、基地の外に行くのも自由で、好きなときに射撃訓練もできた。狙撃兵となって以降、基地内作業にも一切呼ばれなくなった。
狙撃兵の厚遇は桁違い
正式に狙撃兵と認められ、出撃命令が下るまで基地で過ごす毎日がやって来た。
朝は日の出とともに始動する。夏場は4時に起床して基地近くにある埋立地へ。埋立地は民間人立ち入り禁止の広大な鉱山にあり、ここにロシア軍の射撃訓練場があった。
量産型の銃器には癖や特性などの個体差があるため、狙撃銃のセッティングに大幅な時間を割いた。ミリ単位の誤差を調整しながら精度を高めていく。
セッティングが決まれば、次は「射撃データ」を取る作業だ。射撃データとはいわば、自分自身の基準値で、狙撃兵にとってはまさしく生命線となる。
距離や地球の自転、湿度などによる弾の軌道変化を計算して、対象物への狙撃を組み立てていく。呼吸やトリガーを引く指の力でも小さなブレが生じる。まったく揺らさずに射撃を続けることは人間には不可能だが、どんな状況でどれだけ誤差が出るかということも含めたものが自身の射撃データとなる。正確なデータを取るには、平常心と高い集中力を保って射撃を続ける必要がある。
基地には朝8時には必ず戻る。兵士の点呼に続いて朝礼があるからだ。