これらの理論は狙撃兵にとっては基本中の基本で、実際に軍から狙撃兵に任命されるにはこの数十倍の心得やスキルを要する。知識や技術、ストレス耐性に加えて、インスティンクト射撃(スコープを見ず、腕や体の感覚を頼りに敵や標的に向けて素早く発射する射撃技術)も必要だ。これにはいわゆる感覚やセンスといったものが必須で、僕は歩兵に指導するなかでその重要性を再認識させられた。
それはなぜか。いくら教育を施しても、狙撃兵になれるまでに射撃精度を高めた兵士は一人も現れなかったからだ。歩兵から狙撃兵に成り上がることはほとんど不可能に近い。
ロシア軍でできた初めての親友
大勢の外国人義勇兵がいるなかで、一番の親友になったのが「ニカ」だ。彼はイタリア人の母とロシア人の父を持つハーフで、流暢なロシア語を話した。
突撃兵だったニカとの出会いは基地近くの射撃訓練場だった。この訓練場には溜池があり、そこから汲んだ水を煮沸して飲むのだが、あるとき、僕はその水を巡って上官と喧嘩になった。
「今から水を汲みに行け」
近くで上官の声がしたが、最初は自分に向けての命令だと思いもしなかった。
「早く水を汲みに行け!」
「ん? なんで俺が行かなアカンねん」
「俺がお前に命令したんだ」
「なんで俺が行かなあかんねん、ボケ」
怒りが頂点に達しかけたとき、ニカが走り寄ってきてこう言った。
「サムライ、僕と一緒に行って、ついでに泳ごうよ」
ニカは独特の雰囲気と優しさを持っていた。誰の喧嘩でも物腰柔らかく仲裁する。声は低く、小さい。それなのに、彼の言葉は、興奮している奴らの耳にしっかりと届いた。
ニカはハンサムで、シャイな男だった。父親はロシア人だが住まいはイタリアにあった。なぜ外国人義勇兵として志願したか聞くと、「嫁に逃げられた悲しみで自暴自棄になったから」と照れ臭そうに語った。
そんなニカが突撃命令で死亡した――。