突然現れた「新たな異変」
うつ病は再発の多い病気といわれる。発症の引き金となった性格の傾向や職場環境などのストレス要因が改善されないままだと、再び負荷がかかることで症状の再燃を招くケースがあるのだという。
「自分が休んでいた数カ月間、みんなに迷惑をかけた。その分を取り返さないといけない」
焦ってはいけないとわかっていながら、心のどこかにはそんな気持ちが残っていた。松村統括官は「あまり無理しないで」とたびたび声をかけてくれたが、そのたびに私は心配をかけまいとこんなふうに返した。
「大丈夫です。医者も寛解って言ってくれていて、もう調子は万全ですから」
寛解と告げられてから数カ月がすぎたころ、異変は突然現れた。
いつもどおり休憩室で昼食の弁当を食べ、午後の勤務に戻ったところで急に頭の中に靄がかかったようになった。思考がまとまらず、脳がフリーズした感覚だ。
(まただ……)
説明が難しいのだが、感覚的に「うつ病が再発した」と直感した。
脳の中に黒いインクを流し込まれたような感覚が広がっていく。「再発」の恐怖が全身を覆い、身動きがとれない。私はすぐに松村統括官のデスクに行った。
「どうも体調が悪いので、今日はこのまま休ませていただけないでしょうか」
松村統括官はぎょっとした顔で私をまじまじと見た。なんと言っていいのか迷っているようだった。
「わかりました」
その声にはあきらめがまじっているようにも感じられた。そのあと、どうやって家に帰ったのか、私にはそのときの記憶がない。
翌日、私は妻とともに精神科に行った。
「ずっと調子よかったのですが、昨日の昼食後、仕事中に急に体調が悪くなりました。頭の中に靄がかかって仕事どころではなくなりました」
そこまで説明すると医師は静かに口を開いた。