戦後まもない1946年、住友財閥当主の12歳の長女が下校途中に誘拐された。犯人は、半年前にも良家の令嬢を連れ去っていた22歳の男・樋口芳男だった。

 逮捕後、彼が口にしたのは「私は11、12歳の少女にしか情熱を燃やすことができなかった」という衝撃の供述。捜査が進むにつれ、少女への異常な執着と、周到に練られた犯行の実態が浮かび上がる。

「住友令嬢誘拐事件」のその後を、鉄人社の文庫新刊『戦後まもない日本で起きた30の怖い事件』よりお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

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写真はイメージ ©getty

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誘拐から4日後…

 誘拐から4日後の9月21日15時半、長野県西筑摩郡吾嬬村(現在の木曽郡南木曽町大字吾妻)に住む老婆が、松本発の名古屋行きの列車に乗り、新聞を広げた。彼女は邦子さん誘拐に関する記事もくまなく読み込む。

 ほどなく列車が塩尻駅に到着。と、前の座席に11、12歳の娘が飛び込んできた。「ねずみ色の帽子に下駄履き」など、いま読んだ記事とそっくりな姿にぎょっとしていたところ、続いて22、23歳の国民服を着た新聞の写真に酷似した男が少女の隣に座った。