なぜ女性アスリートはフィクションの題材になりにくいのか

額賀 女子駅伝は、私もいつか書きたいと思って取材もしていたんです。女子アスリートは男子にはない問題を抱えていますよね。怪我や勝敗、駅伝を走る意味といったメンタル面に加え、体の成長や体重の増加、生理の問題、そして卒業後のキャリア、結婚、出産、子育てなど。女子アスリートは考えなければいけないことが多く、男子より競技への向き合い方がシンプルではない。それがこの作品には如実に出ていると思いました。

 エースの瑞月が事故で抜けた穴をどう埋めるかというときにメンバーそれぞれが、留学生の問題、貧血や生理などの問題を葛藤として抱え、それがミステリにも絡んでくる。女子スポーツならではの繊細な題材を追うことで、本筋の事件の真相が明らかになっていく構成がすごくいいと思いました。特に留学生の問題については泉秀一さんの『アフリカから来たランナーたち』という新書を先に読んでいたので、ザワディの話は特に解像度高く読めました。

森山世衣さんのデビュー作『ひなたの中継点』

森山 『ひなたの中継点』をミステリにしたのは、女子スポーツの現実をそのまま描いてしまうと、テーマが重たくなりすぎるからなんです。ただただ「女子はつらい」と訴えるだけの小説では面白くないし、男性読者は引いてしまうかもしれない。そこで女子スポーツの現実を見せるだけでなく、それをミステリという器を使ってうまく包み込みたいと考えました。

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額賀 女子スポーツを書くと重くなりがちというのは、その通りだと思います。スポーツ小説の作家仲間と話していても、「なぜフィクションの題材は男子ばかりなのか」という話題がよく出るんです。

森山 他のスポーツでもそうなんですね。

額賀 例えば野球でもサッカーでも、フィクションとなるとまず男子が主人公になりがちですよね。もちろん、男子のほうが身体能力が高いからという理由はありますが、個人的に、その競技の面白さを純粋に書きたいと思ったとき、女子スポーツ特有の“重さ”を盛り込むと、主題が多くブレてしまうのがネックなんじゃないかと。その重さを説教くさく感じさせずにミステリというパッケージに落とし込むという作戦は、とても成功していると思います。