その昔、クルマは贅沢品であり庶民にとって憧れの存在であった。それが大衆車が生まれ、軽自動車が生まれ、日本経済が豊かになったことで新たに醸成されたカテゴリーもある。

 その一つが女性仕様車ではないだろうか。いわゆる女性向けに仕立てたクルマのことだが、紐解いてみると、その歴史は長く、そして色々な段階があり、それぞれに意味があることが見えてきた。その考察に、しばしお付き合い願いたい。

1961年に誕生した日本初の「女性向け」のクルマ

 日本で女性向け、というクルマの仕様が生まれたのは、なんと1961年まで遡る。ダットサンブルーバードにファンシーデラックスというグレードが用意されたことが、最初の女性仕様車だ。

ADVERTISEMENT

ダットサンブルーバード1200ファンシーデラックス(日産公式サイトより)

 ボディには2トーンのパステルカラーを用意して、ハイヒールを収納するスタンドや化粧ポーチが備わり、ウインカーを作動させるとオルゴール音を奏でたらしい。

 1960年代の高度成長期を経て、マイカー時代が到来したものの、オイルショックや排ガス規制など、女性が自分のクルマを持つのはまだ難しい時代をくぐり抜け、80年代になってバブル景気に向かって経済が強く盛り上がっていく頃になった。

CMで人気に 「スカートでも乗りやすい」回転シート

 47万円という、当時でも破格値で登場したスズキ・アルト。このクルマに人気歌手の小林麻美をキャラクターとしたTVCMを展開し人気を得たことから、女性向けのグレードとしてアルトに麻美スペシャルという限定車が誕生した。

 それでも、この頃の女性仕様車は運転席のサンバイザーにもバニティミラーが装備され、シート表皮などが鮮やかな配色となっていた程度だった。ただしスカートでも乗降しやすいよう、運転席の座面が60度回転するシートとなっていた。

 普通車で女性仕様が登場するのは、それから2年ほど後のことだ。トヨタが人気のハッチバック、カローラIIにウインディという特別仕様車を設定したのである。

 これは上級グレードにしか備わっていなかったパワーステアリングやエアコンなどの快適装備を備えながら、そのほかの豪華装備を抑えることで価格面でもお買い得感を出したモデルであった。

 当時CMキャラクターだった原田知世の人気もあって知名度は急上昇し、何度も特別仕様車として販売された後、スーパーウインディという上級グレードにまで発展した。当時のトヨタでは、カローラレビンにライムという女性向けのグレードも用意されていたが、こちらもウインディと狙いは同じだった。

 ちなみに、この女性をターゲットにしたグレードは、前述のようにお買い得でもあったことから、意外と男性ユーザーにも人気があった。もっともカローラレビンのライムは、カローラIIウインディほどお買い得ではなく、サイズもやや大きかったことから、それほど売れなかったようだ。

 この頃の女性仕様車は内装色を変え、装備を充実させたお買い得仕様という程度のものだったのだ。